今月のレポートでは最近(2015年9月上旬)大きなニュースになっているシリアからの難民とスウェーデンのシニアの関係についてレポートしたいと思います。

ボランティア

スウェーデン南部の街マリエスタードに住む、ビルギッタさん(67歳)は現役で仕事をしていたときは事務局長兼マネージャーとして東奔西走しました。そんな彼女も数年前に定年退職した際、心の中が空っぽになった気がしたそうです。家に帰って、掃除をしてただ何かを待つ。そんなことはつまらないことだと思っていました。そんなある日、友達と一緒に教会で開かれたある会合に出席して、難民の受け入れに強い関心を抱くようになったそうです。ビルギッタさんは誰かから必要とされたいと思っているそうです。そして、難民を受け入れることでまさにそれを実現しています。このことは心に開いた穴を埋めてくれたそうです。

2015-09-Fig1
ビルギッタさん(中央)とシリアから来た姉弟
写真:カーリン・セーデル

教会での会合で難民に関心を持ったビルギッタさんは家に帰って、押入れの中を整理して、使っていない着物や靴などを集めたそうです。必要としている難民の人達へ渡すために、友達や親戚からもいらなくなったものを色々もらいました。集めた支援物資は家に収まりきれず、今では赤十字の協力も得て、保管場所を確保しているそうです。物資を集めるだけではなく、アパートを見つける、引越し、家の改装など、住居の面倒も見ているそうです。そのほかにも健康診断、眼鏡屋に連れて行く、運転、子供と遊ぶ、お菓子を焼く、スウェーデン語を教える、悩み相談と様々な援助をしています。同時に彼女自身はシリアの文化、アラビア語、宗教などについて勉強しています。一日中、かかりきりで、夜中でもどうすれば懸案事項が解決できるか考えているそうです。

こういった活動も、楽しく、満足いくことばかりではないそうです。多くのシリア難民は戦争体験などによるトラウマを持っているそうです。先に述べたようにスウェーデンでは滞在許可を得やすいといっても将来への不安はあります。やむをえない事情でスウェーデンを去った難民の人ともSkypeで連絡を取っているそうです。

ビルギッタさんは難民の人に直接会うようになりと、すぐになじみ、人気者になりました。ビルギッタさんには3人の実の息子と実の孫が1人のほかに養子の息子・娘がそれぞれ1人、孫6人、ひ孫2人がいます。シリアから来た子たちは「ビルギッタはスーパーウーマンだ」と言っていますが、ビルギッタさんはできることをやっているだけと謙遜しています。

ビルギッタさんは、「もし私が彼らと同じ立場であったら、私が今やっていることと同じことをやってもらいたいと思っています。悲しくつらいときもありますが楽しいこともあります。今ほど人から頼られているときはありません」と言い、充実した生活に満足しているようです。

退職者協会と難民

スウェーデンはこれまでにも多くの難民を受け入れてきました。イギリスのインデペンデント紙やガーディアン紙も最近伝えているように、スウェーデンは非EU国民の難民受け入れの認可率、人口に対する受け入れ率はEU諸国の中でもトップクラスです。最大規模の受け入れは1990年代のユーゴスラビア紛争のときで、17万人以上の人を受け入れました。スウェーデンの人口が900万人程度であることを考えれば、非常に多くの難民を受け入れたことがわかります。また、最近のシリア危機の影響で、10万人近くの難民がスウェーデンに来ると推測されています。

昨冬、退職者協会会長のクリスチーナ・ロゲスタム氏は国内の500人以上の関係者に会い、難民の支持を訴えたそうです。そして、多くの退職者協会に所属するシニアの人たちが指示を表明し、難民の権利を保障する手伝いを始めているそうです。

2015-09-Fig2
クリスチーナ・ロゲスタム氏(退職者協会会長・元移民庁長官)
写真:Twitterプロフィールより

「なぜ、退職者協会に所属するシニアの人たちが難民の援助をするのか?」という疑問がわくと思いますが、それに対して、ロゲスタム氏は、

「スウェーデンが(大量の難民を受け入れるという)大きな挑戦をしているので、スウェーデンに滞在するものとして、何とか役に立ちたいという思いがあるからです。お互い助け合い、自国民と難民、皆が気持ちよく住める国づくりをすすめたいという思い。難民の人を助けることで、彼らが早くスウェーデン語を習得し、就職してくれ、税金を払ってくれるようになれば年金問題も解決するという自己中心的な思いも少しはありますけどね。」

と言っています。
スウェーデンの人はおおむね、移民・難民の受け入れに好意的ですが、受け入れを拒否する、あるいは否定的な人もいます。こういった人達に対して、ロゲスタム氏は、

「2点ほど言いたいことがあります。まずは難民受け入れを拒否することは非人道的であるということ。この国に住みたいという限り、できるだけ援助すべきであり、我々には道義的責任があります。そして二点目、スウェーデンは高齢化社会ですので、若い世代(勤労者世代)の穴を埋める必要があるということ。」

と言っています。また、退職者協会に所属するシニアの中にも、移民・難民の受け入れに積極的でない人がいます。こういう人達にも、ロゲスタム氏は、

「これは臭いものにふた的に避けて通れない問題です。助ける必要があります。腹を割って、話し合い、外国人嫌い、極右民族主義者にならないようにすべき。」

という、メッセージを送っています。

また、移民・難民の必要性について具体例を挙げて次のように言っています。

「大都市を見ればわかると思います。もし、すべての移民・難民全員が1日仕事をせずに自分の家にいれば介護現場は完全に麻痺するでしょう(注:スウェーデンの介護スタッフは移民の割合が非常に高い)。健康に問題も出ますし、公共交通機関も麻痺するでしょう(注:介護と同様、交通機関の運転手なども移民の割合が高い)。ですので、スウェーデンの将来のためにはそういった分野での働き手が必要です。」

こういった考えに、「それは難民の人がすぐに就職できることを前提にした話で、そういうことが可能なのか、どうやって実現するのか?」という疑問を持つ人がいます。これに対して、ロゲスタム氏は次のように言っています。

「何といってもスウェーデン語の習得が第一です。これに関しては退職者協会に所属するシニアの人たちがかなり貢献できるのではないかと考えています。例えば友達としていっしょに、お茶しながら、話をすることで。移民・難民のためのスウェーデン語の教師として貢献できないか地方自治体に連絡をとったシニアたちの話を聞きました。1週間に1時間、電話でスウェーデン語のレッスンをするようになったという話も聞きました。
こういった小さなことが、大きな波になると信じています。」

ロゲスタム氏は難民をよりスムーズに受け入れるために、様々なことをしなければならないと考えています。例えば難民のスウェーデンでの滞在許可を出すにしろ、出さないにしろ、早くその決定を下す必要があると考えています。現在のシステムでは決定が出るまでに非常に時間がかかっているので、移民庁の職員を増やして、結果を早く出せるようにすべきだと言っています。また、優先順位をつけることも重要だと言っています。医師、技術者、教師など、技能を持っている人が、ずっと許可待ちの列に並んでいるので、こういった人たちには滞在許可を与えるにしろ、与えないにしろ、スウェーデンは医師や看護師をもっと必要としているので、人材を有効的に活用するために優先的に結果を伝えるべきだと考えています。

ロゲスタム氏がこのように難民問題に熱心なのは移民庁長官を5年間(1988-1992)務めた経験から来ているそうです。

「私のように、移民庁のトップとして5年間も働けば、こういった問題は無視できませんよ。弱い立場の人と会うというのは、本当に心を打たれます。」

と言っています。

まとめ

今回のレポートでは、難民といかにシニアが向き合っているか、どのように向き合うべきと考えているか、その一端をレポートいたしました。このレポートを書いている時点で、多くの難民が難民受け入れに寛容なドイツとスウェーデンを目指しています。スウェーデンを目指している難民の人達は今(2015年9月上旬)、デンマークに到達したところです。失敗が許されないスウェーデンの挑戦が始まろうとしています。