今月のレポートではスウェーデン高齢者の医療・介護の分野で重要な役割を果たしているデータベースシステム、シニアアラート(Senior Alert)についてレポートしたいと思います。

「シニアアラート」システム

「シニアアラート」システムでは、65歳以上の高齢者が医療・介護を受ける際にインターネットを通じて、医療関係者が関連情報の登録を行います。転倒、栄養失調、褥瘡(床ずれ)、口腔の分野でリスク評価を行い、行った対策・結果を系統的に登録するものです。このシステムを使うことによって、スウェーデン国内で共通したデータベースができ、それが医療介護を評価し、各組織の怪我の予防策や処置を比較するものとして利用されます。また、各自治体が、最善の医療介護を提供するために利用されます。

シニアアラートは2000年の始め、スウェーデンの南部のヨンショーピング県の医療チームが先に挙げた転倒、褥瘡(床ずれ)、栄養失調の数を減らす目的で改善策をとり始めたのが始まりです。その後、2005年にはヨンショーピング県全体の医療施設でシステムが導入され、2008年には全国的なシステムとしてスタートしました。

医療・介護の従事者はシニアアラートのシステムを使うことによって、上に挙げた分野で予防的な医療介護を提供するようにしています。これらの領域は日々の業務に大きく関わる領域であり、それぞれの領域は密接な関わりがあります。例えば、栄養失調のお年寄りが、よく転倒するようになり、大腿骨骨折、それに伴って、寝たきり褥瘡が引き起こされるということがよくあります。医療・介護の従事者にとって、このシステムを使う利点は、システムが系統的で結果が可視化されているということです。医療・介護の従事者は信頼できる根拠に基づいた各領域の計測や評価ツールを使います。例えば、褥瘡のリスク評価のためには、修正ノートンスケールが使われます。これは1960年代から使われている褥瘡のリスクを評価するためのスケールで、精神状態、水分摂取量や歩行の様子など複数の項目から高齢者のレベルを選択し数値化し、どの程度の褥瘡リスクがあるかを判定するものです。

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シニアアラートシステムの概略図
ヨアキム・エドビンソンらによるシニアアラートに関する論文より
出典:Quality management in healthcare 04/2015; 24(2):96-101
このシステムで収集されたデータは研究や健康と経済的観点に基づいた試算にも使われます。倫理上の審査を通過した研究テーマであれば研究者や学生でもデータを研究に利用することができますが、その場合、個人情報や個人番号の扱い方の詳細な説明を要求されます。現在このシステムはスウェーデン国内の約90%の自治体で導入されており、高齢者の医療介護の発展の目的のもと、スウェーデン政府のレポートでもデータベースは利用されています。

医療介護を受ける高齢者にとっても、このシステムは大きなメリットとなります。高齢者は上記の健康上のリスクがあるということが分かり、よくなるために予防策をとり、フォローアップし、健康上の問題が改善すること医療・介護の従事者とともに目指せます。また、高齢者の体の不調や、改善が必要と感じていることを医療・介護の従事者に聞いてもらうことができます。

スウェーデンでは住民全員に個人番号があり、このシステムの登録時にも個人番号とともに、個別の情報として登録されます。しかしこのデータベースから作成される統計は匿名で作成され、個人の情報は追跡することはできません。シニアアラートへの登録は任意で、登録の有無によって、受給する医療・介護に影響がでることはありません。また、このデータベースに登録してある情報の開示を求めることも可能で、誤った情報があれば、訂正を求めることもできます。

アスケルスンド市の例

アスケルスンド市では、高齢者の病気や怪我の予防の取り組みを進めるため、介護チームが情報や指針を示した資料を用意し、また高齢者にも分かりやすくまとめた資料を配布しました。この予防的取り組みに関する知識が介護従事者に確実に伝わるよう、継続的なフォローアップや、チームによる会議が行われました。

アスケルスンド市では年齢に関係なく訪問医療を受ける患者すべてにリスク判定が行われます。決まった患者担当者が定められたルーチンと様式を使ってリスク判定を行います。そのリスク判定に基づいてケアのための計画が立てられ、実施、フォローアップが行われます。このことによって、複数のスタッフが情報を共有することができます。毎週行われるチーム会議、毎月1回のスタッフ全員の会議では、リスク判定方法についておさらいをします。

何か起こった場合は、そのことがシニアアラートとカルテに記録されます。患者の体調や、看護の変更、新しくとられた措置などはすべてカルテに記録されます。これらの記録によって、例えば、先月、管轄地域で何件の転倒があったか分かります。そして、その結果に応じて、新しい処置や計画を立てます。また、チーム会議で話し合いをし、記録します。3ヶ月以内に新しい処置の結果をみて、フォローアップします。そしてそれをまたシニアアラートとカルテに記録していきます。

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シニアアラートシステムを用いた予防ケアのプロセスの概略図
ヨアキム・エドビンソンらによるシニアアラートに関する論文より
出典:Quality management in healthcare 04/2015; 24(2):96-101
アスケルスンド市ではこのシステムを取り入れることによって、転倒の件数が減り、高齢者に関しては家に潜む転倒リスクについてより理解が深まったと言います。また、情報の提供や話し合いを通して、高齢者がより自分の健康の改善に積極的に取り組むようになったそうです。

まとめ

今回のレポートでは医療・介護のサービス・システムを改善するために役立てられているデータベースについてご紹介いたしました。「シニアアラート」システムは、医療・介護を受ける当事者、医療・介護関係者、介護サービスの改善をすすめる自治体担当者、それぞれの立場の人に有効利用されています。