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ヨーロッパ高齢者事情研究のため、2007年2月ストックホルムシニアライフ研究所を開設しました。
現地から最新の高齢者事情をレポートします。

スウェーデン少子高齢化の問題

松下泰志(Taishi Matsushita: 2012/1-), セスレ真美(Mami Sessle: 2011/11-2011/12),
ローベリ亜佐子(Asako Raberg: 2011/1-2011/10), ダールマン容子(Yoko Dahlman: 2007/2-2010/12)   

前回はスウェーデン王室についてご紹介いたしました。今回はスウェーデンの年金制度問題点についてご紹介いたします。

 変化するスウェーデンの年金制度

日本と同様、少子高齢化が進むスウェーデンでは年金制度に関する試行錯誤が行われている。スウェーデンの年金は、基本的に日本のそれと同じような3階建ての構造となっている。

一番ベースとなる1階部分は、いわゆる『国民年金』で、全国民が受けることのできる最低限の保証。
2階部分は日本でいう『厚生年金』のようなもので雇用主が賃金の一部を年金として積み立てる。ちなみにこれは雇用主の義務ではないが、現在は90%の雇用主が行っている。
そして3階部分は日本の『企業年金』や『国民年金基金』と同じように各個人が『投資』のような形で積み立てていくものである。(詳しくはスウェーデンの年金制度のレポートご覧ください)
 
 
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そのうちまず一番ベースとなる1階部分の『国民年金』については、1999年に年金改革制度が行われた。

スウェーデンの国民年金は、2つの部分から成り立っており、一つは全ての国民が受けることのできる『基礎年金』部分で、もう一つは現役時代に支払われた保険料(所得の18.5%)に応じて支給額が変化する『所得比例年金』と呼ばれる部分である。以前は『基礎年金』部分は所得に関わらず一定であったが、99年の改革により『所得比例年金』が中心となる仕組みに変った。


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*イメージは読売新聞より抜擢
 
さらに、先ほどの3階建てピラミッドの2階部分の『厚生年金』に相当するものは、 『ITP(Industrins och handelns tillaggspension(産業及び商工業追加年金)』と呼ばれ、従来積み立て金額は賃金の2~5%と決められていた。

しかし2007年7月にITP制度は改正され、1979年以降に生まれた国民は、それぞれ個人個人がその積み立て金額や方法を選択するようになった。

このように、スウェーデンの年金システムはよりよい仕組みを目指して短い期間に変化を続けている。

自分のために積み立てる年金システム

以前のスウェーデンの年金システムは働く世代が100%年金世代を支える図式であったが、現在では働く世代の保険料の支払いの一部は自分の将来の年金のために積み立てられる仕組みに変った。

さらに将来的には自分が将来受け取る年金額の100%を現役時代の自身の保険料でまかなうような仕組みに移行していくことを目指している。

このような変化により、個人個人がどのように年金の積み立てを行っていくかということが、将来の自分自身の年金受取額を大きく左右する重要なポイントとなっていくのだ。


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年金支給額と個人の責任

例えば、現在28歳でオフィスアシスタントとして働らく二人の女性、仮にマリアとソフィーを例にとってみる。

この二人の収入は全く同じで、月給19,800kr(約297,000円)。また、会社の規模や仕事の内容もほぼ同等である。二人とも年金を受け取り始めるのは65歳の誕生日を迎えてからだ。

しかし、その年金支給金額はマリアは27,600kr(約414,000円)で、ソフィーは13,000kr(約195,000円)となってしまう。現役時代これほど同じような条件下で仕事をしていても実際に受け取る年金金額にはこんなにも大きな差が出てくる可能性がある。

その原因は、新しい年金システムの構造にある。年金支給金額に対する責任は、徐々に国や雇用主から各個人へと移りつつある。古いシステムでは年金の大部分は国や雇用主によって管理され、保障されていた。

しかし現在では、自分の将来の年金のためにいくら『投資』するのかということを個人が選択するようになってきている。

そして、その『投資』をどこに、どのように行うかによって、将来の年金支給額は大きく変ってくるのだ。しかし、実はスウェーデンでこの事実をはっきりと認識している人はまだ少ない。

新しい年金制度への情報不足

スウェーデンにおける年金制度改革やITP制度の改正は反論の余地のないほど、必要不可欠な措置であったと誰もが考えている。少子高齢化が進む中、将来的にはより少ない人々がより多くの人々を支えなければならず、古い年金制度は経済的に継続不可能だ。国や雇用主が従来の年金制度はリスクが大きすぎると考えたことも当然のことである。

しかしながら、制度改革による結果、年金支給額面に対する責任は国や雇用主から個人へと劇的に移行するものであるという事実は、十分に伝えられていない。

誰もがそれぞれ自分の年金支給額に影響を与えられるということは前向きな事実だが、国民がその事実を十分に理解していないということは大きな問題である。

先ほど挙げたマリアとソフィーの例では、マリアは『ITP』と呼ばれる厚生年金部分の投資をうまく運用しつづけ、年間平均7%の利益を出していた。また個人での年金積み立ても行っていた。
一方ソフィーはそれほどの投資をせず、また彼女の選択が運悪くあまり効果的ではなかったため、年間平均2%ほどの利益しか上げていなかった。

年金に関する責任が大きくなってきた現在、自分の年金をどのように運用するかは重大な問題となっている。
 
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新しいITPについての説明が書かれた資料をしっかりと読む必要がある。


将来の年金生活への不安

また同時に、たとえ投資の選択に成功したとしても、それが自動的に年金生活者として天国のような生活が待っていると考えることはできない。あくまでもそれは適切な生活水準をキープできるだけのことだ。

国際経済学者であるヨーラン・ノールマン氏の2006年のレポートによると、将来、ほとんどの年金生活者は現役時代の収入の半分、またはそれ以下の年金支給額で満足しなければならなくなるだろうと述べている。

年金への投資の責任の重要性を十分認識しないまま、年金生活になって初めて自分が経済的にやっていけないということに気が付くということになれば、社会に多大な影響を与える恐れがある。

そのときには年金生活者の数は人口のかなりの割合を占めることになっており、働いている人々が今よりもさらに大きな負担を強いられる可能性があるからだ。それとも年金生活者となった各個人が全ての責任を取らされるのだろうか。

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新しい年金システムを若者に十分認識させる必要がある。

将来は、経済的な理由から路上で時間を過ごす年金生活者が出てくるのだろうか。
 

年金制度の変化と国の責任

国や雇用主はこの年金制度の変化及びそれにおける個人の責任の重大さをより明確に訴えていく必要がある、とスウェーデンの専門家は訴えている。

またその場合には、将来の年金支給額が現在考えられているものよりもおそらく低いものになるであろうことも同時に明らかにするべきである。

前出のマリアとソフィーの例は仮定ではあるが、かなり現実的なものである。3階建て構造のトップにある個人の年金積立金が将来の年金支給額をあげることは現在でもすでに多くの人が認識しているが、2階部分にあるITP制度の選択の影響についてはまだまだ知られていない。

スウェーデンの未来の社会が、貧しい高齢者であふれかえるということにならないためにも、政府には年金制度を改革するだけでなく、それを正しく国民に伝える義務があるのだ。
 

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