HOME  >  スウェーデンシニアレポート  >  国営薬局の民営化問題

ヨーロッパ高齢者事情研究のため、2007年2月ストックホルムシニアライフ研究所を開設しました。
現地から最新の高齢者事情をレポートします。

国営薬局の民営化問題

松下泰志(Taishi Matsushita: 2012/1-), セスレ真美(Mami Sessle: 2011/11-2011/12),
ローベリ亜佐子(Asako Raberg: 2011/1-2011/10), ダールマン容子(Yoko Dahlman: 2007/2-2010/12)   

前回はスウェーデンの高齢者ビジネス、政府主導の『賢い』製品開発プロジェクトについてご紹介いたしました。今回はスウェーデンの民営化事情編として、国営薬局の民営化問題についてご紹介いたします。

- 今回は筆者休養の為、2008年7月執筆の原稿を掲載いたします。 -

ヨーラン・ヘッグルンド氏のインタビュー

社会保険庁のヨーラン・ヘッグルンド氏(キリスト教党)は国営薬局の民営化により、スウェーデンの薬局の働きがよりよくなるということを信じている。
例えば、地方過疎地であるノーランド地区(スウェーデン北部)の内地に、今より多くの薬局ができるのですか、という質問に対してはノーと答えるヘッグルンド氏は、そういった過疎地においてもサービスを受けることができるシステムを作ると言う。
 
Apoteket(アポテーケット)という名前で親しまれているスウェーデンの薬局は、現在、国営である。
その薬局を、民営化する動きが進められている。
多くの年金生活者、高齢者たちは薬局の民営化により、処方薬が高くなること、そして過疎が進む地方エリアでの薬局の利用が難しくなることを心配し、反対の声を上げている。

社会保険庁の大臣、ヨーラン・ヘッグルンド氏は、そういった心配に対し、PRO(=Pentionarernas RiksOrganisation)=全国高齢者組織のインタビューに答えた。

民営化を不安に感じる高齢者たち

何千もの年金生活者、高齢者たちは、社会保険庁の大臣であるヨーラン・ヘッグルンド氏へ国営薬局Apoteket(アポテーケット)を民営化することを考え直してほしいと言う懇願の手紙を送った。
ヘッグルンド氏は、それらの手紙を受け取ったと明言したが、その手紙が何通くらいだったかということには触れなかった。

高齢者たちの主な不安は、現在の国営薬局が民営化された際に、本当に現在と同じくらいのレベルの安心感と信頼感を、一民間企業が与えてくれるのだろうか、と言うことだ。

ヘッグルンド氏自身は、地方エリアでのサービスの低下や処方薬への助成金システムが悪くなる、または社会の処方薬価格が上がる、などの提示されている問題に関しては少しも心配していないと言う。

091101.jpg  社会保険庁大臣、ヨーラン・ヘッグルンド氏

「現在の国営薬局アポテーケットが、一般的に国民から大変な信頼を得ていると言うことは認識しています。薬局をより多く利用すればするほど、その信頼は高いものになっていると思います。その信頼は、もちろん保持され続けるようにします。もちろん、我々はより悪くなると考えるから改革を行うのではなく、より良くなると信じているからこそ、改革を進めているのです。」

現在、スウェーデン国内には約950の国営薬局アポテーケットが配置され、さらに約850のピックアップ・プレースと呼ばれる準・薬局が主に地方を中心に配置されている。
しかし、都心のアポテーケットでは、薬を処方してもらえるまでの待ち時間が通常非常に長く、地方では薬局までの距離がかなり遠いという現状がある。
 
はたして、ヨーラン・ヘッグルンド氏は、スウェーデンの過疎地であるノーランド地区の内部のようなエリアにおいても、民営企業による薬局が定着するチャンスがあると、本当に考えているのだろうか。
「いいえ、そうは思いません。しかし、そういった過疎エリアにもきちんとしたサービスを提供できるシステムを作り出すのです。」と彼は言う。 
 

隣国、ノルウェーの例

ヘッグルンド氏は、ノルウェーとアイスランドを例に出す。それらの国では、薬局の民営化後、アクセスがより便利になったと考えられている。
「ノルウェーやアイスランドでは、民営化後、薬局の数は、40-44%上昇しました。」
そういった事実もあるだろう。しかし、地方の過疎エリアにも薬局は残されているのですか、という質問に対し、「いいえ。はっきりとどこまで残されているのかはわかりません。」そう告白する。

ノルウェーの例では、処方薬の価格は民営化後にかなり上昇したと言われている。
ノルウェーは、比較対照としてはあまりよくないと言うことなのだろうか。
「もちろん、コストはきちんとコントロールして、商品の価格が上がり過ぎないように調整します。我々に必要なのは、強力なシステムで管理するルールでコントロールすることです。また、現在と同様、薬局で働く人たちは正しい教育を受けているということを保障します。」

民営化の動きに平行して販売に関するさまざまなルールが作られているという。
しかし、その詳細については現時点では明らかにできないと言う。
「私たちが検討しているのは、現在あるルールの撤廃ではなく、ルールの改善と言うことなのです。

サービス企業としての株式会社・薬局(アポテーケット)

実務的には、薬局が民営化された後も、政府がサービス企業である『株式会社アポテーケット』の権利を100%所有し続けることになる。薬局そのものはその企業の外側に位置する。
これらの薬局のうち半分は一般に売り出される。
方法としては、各薬局を買い取った人、会社が、自身で新しくスタートさせるか、または市場に現れる他のプレーヤーが買い取ると言う形だ。
さらには、完全に新しい薬局を始めることも可能だ。
しかし、その場合には非常に厳しくシステムルールに従うことが要求される。

  
現在の国営薬局アポテーケット

「すでに進められている改革・発展を無駄にするつもりはありません。例えば、処方薬のメールオーダーシステムや『処方薬の総覧システム』などの可能性の検討は、現在すでに進められており、もちろんそれらはそのまま進めていきます。」
『処方薬の総覧心ステム』と言うのは、例えば一人の医師、または薬剤師が一人の患者を担当し、他の医師や薬剤師とお互い邪魔しあうことなく、ひとつの機能としての役割を果たす、というものである。
こういったサービスの発展はそのまま進められるが、それは『株式会社・アポテーケット』の責任となる。

最低年金支払額の引き上げによる問題

薬局民営化問題だけが、ヨーラン・ヘッグルンド氏のかかわっていることと言うわけではない。
例えば、高齢の年金生活者の悪化した経済状況というテーマは、彼が受け取る手紙の中でもっとも一般的な内容である。
例えば、ATP(一般年金補助金)を全く受けられていない高齢者の問題などである。
「つらい状況に共感することはもちろんいいことですが、しかし、社会保険庁の大臣として、状況を改善するために私ができることは、なんなのか?それを考えなければいけません。」

例えば、最低年金支払額を引き上げることが検討されている。
しかし、同時に、年金額の引き上げは事態を悪化させるかもしれないという懸念もある。
もし年金生活になるまでずっと働き続けてきた人と、全く働いたことのない人がほとんど変わらない年金を支給されるとしたら、働く人々の生活に誤ったシグナルを与えてしまうかもしれない。
さらには、働く人々のモチベーションを下げることになる恐れもある。
 

他の可能性のある方法としては、年金生活者への住宅補助金の支払額を引き上げることだ。このメソッドは政治家たちの間でとても人気がある。『確実』だからだ。
この方法を選べば、お金は確実に必要とされる人々のところへ行くことになる。

「私にとっては、どういった手法を使って、改善を行うかと言うのはそれほど大きな問題ではないと思います。それよりも、重要なことは、実際にそれがなされると言うこと。もちろん、どんなメソッドにも長所があれば、短所もあります。しかし、私たちはすべての可能性を検討しています。」
 
また、多くの高齢者が不安に感じているもうひとつのことは、住居へのケアである。
一人暮らしをしたくない、しかし老人ホームに入るほど状況が悪くないという人たちに対する住宅ケアの欠如である。
「それに関しては、認識しています。だって、私自身、訪問する老人ホームの二つに一つには、自分の名前を順番待ちリストに登録しているんですよ!」そう言ったあと、「じょうだんですよ」と念のため付け加えた。
 

しかしもちろん、状況に関しては全くふざけているわけではない。
近いうちに、新しいホームが建設される、または作られていくことを願っている。
「政府は、各自治体に平均54億SEK(約1026億円)をこういった種類の住居のために確保しています。」
そして、このお金が正しく使われるために、自治体は具体的な計画を示し、お金を受けることを申請する必要がある。
その申請が認められて、初めて自治体はお金を支給される。

まとめ

長らく社会民主党が与党として政権を握っていたが、2年前の選挙で政党が交代した。
それによって、さまざまな国営企業が、民営化へと動き出しているようだ。

この国営薬局アポテーケットは、例えば年間1800SEK(約34,200円)の利用額以上は、すべての薬が無料になるなどといった助成金制度がある。
また、都心でも地方でも同じように充実した内容の薬局で、同じようなサービスを受けることができるため、国民にはとても人気がある。
ただ、反面、例えば営業時間が短かったり(土日・祝日は休み、平日の夜もほとんど営業していない)、サービスが多少お役所的な部分があったり、販売商品の内容のバリエーションが少なかったりなどどいうデメリットも指摘されることもある。
長年国営として親しまれ、国民の信頼の厚い薬局アポテーケットが、今後どのように民営化の道を進んでいくのか、国内では非常に注目が高まっている。
 

ページTOPへ