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ヨーロッパ高齢者事情研究のため、2007年2月ストックホルムシニアライフ研究所を開設しました。
現地から最新の高齢者事情をレポートします。

スウェーデンの高齢者ビジネス(5)

松下泰志(Taishi Matsushita: 2012/1-), セスレ真美(Mami Sessle: 2011/11-2011/12),
ローベリ亜佐子(Asako Raberg: 2011/1-2011/10), ダールマン容子(Yoko Dahlman: 2007/2-2010/12)   

前回は高齢者ビジネス(4)としてベストシニアレストランについてご紹介いたしました。今回は高齢者ビジネス(5)として、高齢者を対象としたマンガをご紹介致します。

高齢者夫婦が主人公の連載マンガ

スウェーデン最大の発行部数をもつ新聞、DAGENS NYHETER(ダーゲンス・ニューヘッテル)に2007年8月より連載を続けている人気4コママンガがある

そのタイトルは、”Medelalders Plus”(メーデルオルデルス・プルス)=「ミドル・エイジ・プラス」というものだ。この作品の主人公は、年金生活を向かえた高齢者夫婦だ。すでに仕事を引退している高齢夫婦の、さりげない日々の生活がこの作品のテーマになっている。長い結婚生活を経た夫婦のなにげないやりとりや、彼らの成長した子供たちや孫、友人たちとの関係について描かれている。もう「若い」とはいえず、むしろ「高齢」という世代にさしかかったら、どのように人生を過ごせばいいのだろうか。彼らは日々の小さな悩みや喜びをどのように考えているのだろうか。このマンガはそんな素朴な質問に答えてくれる。
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「メーデルオルデルス・プルス」のメインキャラクター、名前のない高齢者夫婦。

今年、これまでの掲載作品をまとめた単行本が発行された。書店に並ぶこの本は、以下のように紹介された。

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単行本の表紙となるイラスト

「年金生活になったあと、何か思わず笑ってしまう楽しいことがありますか?その答えに戸惑う人には、ぜひスベン・ベルティル・ベルナルプ氏の”メーデルオルデルス・プラス”がおすすめです。ある年配夫婦と彼らの日々の生活、子供や孫たち、そして友人たちとのやりとりが温かみにあふれるタッチで描かれています。この作品は近年、ダーゲンス・ニューヘッテル紙初め様々な新聞の連載マンガとして多くの人の注目を集めてきました。日々の小さな悩みや喜びを取り上げたこの作品は、世代を超えて多くの人々の共感を集めています。」
 
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 コマ1「♪何もしなくてもお金がもらえる?♪」

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コマ2「♪死ぬまでお金をもらい続けられる?♪」

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コマ3「♪僕たちを苦しめる面倒な上司もいない?♪」

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コマ4「誰かに見られたかね?」「ブラインドを下げておけばよかったですね。」

漫画家自身も高齢者

この作品は特に自伝的作品ではないが、この作品を生み出している漫画家、スベン・ベルティル・ベルナルプ氏も実際このマンガのタイトルの年齢層に属している。ベルナルプ氏はこれまでほとんどメディアに登場することがなく、読者達は一体どのような人物が、この作品を書いているのか、とても興味を持っていた。

今年ヨーテボリ市で行われたブック・フェアにベルナルプ氏は初めて姿を現した。
「読者が私のことを知りたがっていると聞くと、ちょっと緊張します。作品の印象に影響を与えたくないのでね。私のイメージを受けて、作品とは関係のない解釈をされるのは怖いんです。しかも、私はこの作品に登場する人物とはちっとも似ていませんから。私の妻も全然登場人物と似ていないんですよ。」とベルナルプ氏は語る。
  
091001.jpgスベン・ベルティル・ベルナルプ氏

彼が一体どういう人物か、という質問に対しては、
「一体自分が何歳なのかわかっていない男です。“中年”という時をあっという間に過ごしてしまって、気がついたら“年金生活者”になっていましたよ。私の妻が60歳になったと聞いたとき、私の頭に浮かんだのは“え、それじゃあ、僕のおばあちゃんじゃないか”ということでした。もちろん、そんなことはありえないのですがね。僕達は35年間結婚していて、4人の娘もいるんですから。今は、妻と僕は同じ部屋で一緒に仕事をしています。まず僕がグラファイトで下書きをして、インクでなぞる。それから、彼女がそれをパソコンにスキャンして、色付けをするという作業です。一緒にとても楽しくやっています。

もともとベルナルプ氏はヨーテボリ氏の王立美術学院で学んだグラフィックデザイナーだった。
しかし、卒業後は長くジャーナリストとして活躍した。この漫画のアイディアは2001年ごろうまれたという。今まで漫画にはあまり取り上げられなかったテーマ、例えば静かな幸せや日常にあふれている小さな心配事、そして特に才能もなく野望もない二人の人間が、それでも日々を楽しく過ごしている様子などを取り上げたいと考えた。

ベルナルプ氏の作品への反響は少なくない。作品に満足している読者から送られる小さな手紙や、はがきなどは毎日のように届く。
「例えば、84歳の人から、お礼の手紙をもらうことは本当に嬉しいことです。中には、彼らの家に隠しカメラをつけているのかとか、彼らの会話を聞いていると思うほどリアルだ、というコメントなどもあります。」

アダムスソン賞を受賞

ダーゲンス・ニューヘッテル紙では、当初試験的にこの作品を新聞に掲載し、そして2007年の8月からは毎日連載という形で掲載してきた。連載開始の翌年に、この作品はスウェーデン・マンガ協会の最も名誉ある賞、アダムソン賞を受賞した。
 

アダムスソン賞を受賞するベルナルプ氏

審査員から選考の理由が以下のように述べられた。
「年金生活夫婦の特に変化のない日々の生活を描いたマンガが、世間一般の関心を集めることはできるのだろうか。ほとんどできないだろう。
しかし、それがまさにスベン・ベルティル・ベルナルプ氏が成功したことなのだ。この作品の中で、彼は特に大きな問題もない、どこにでもいるような高齢夫婦の日々の生活を描いている。シリアスで温かく、思いやりがあり、そして現実的なユーモアのおかげで、メーデルオルデルス・プルスは魅力のあるマンガ作品となり、当前のように、世代を超えた人々から支持されるようになったのだ。」

「作品のアイディアを考える一番いい方法は、“忙しくしないこと”。そうすると、必ず誰かが声をかけてきて、こんな出来事があった、と話してくれます。そこからアイディアがうまれたりするんです。人というのは、誰でも未知のジャングルの中の探検隊のようなものですよ。」とベルナルプ氏は自身の哲学を語る。また外出するときには常にスケッチブックを持ち歩き、人々の体の動きや街の風景などを描き止めているという。

まとめ

高齢者の変化のない日常を描いたマンガが、こんなにも世間一般の人々に愛されるとは作者であるベルナルプ氏自身も想像しなかったかもしれない。

しかし、のんびりとして、温かみのある、そしてちょっとさめているような高齢者夫婦のやりとりを毎日の新聞で目にすると、なんとも言えない癒しを感じることができる。

スウェーデンは日本ほどマンガ文化が発達していないが、それでも単行本として発行されるこの作品は、現在世間の注目を集めている。

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