HOME  >  スウェーデンシニアレポート  >  栄養不足問題に見る民営化の可能性

ヨーロッパ高齢者事情研究のため、2007年2月ストックホルムシニアライフ研究所を開設しました。
現地から最新の高齢者事情をレポートします。

栄養不足問題に見る民営化の可能性

松下泰志(Taishi Matsushita: 2012/1-), セスレ真美(Mami Sessle: 2011/11-2011/12),
ローベリ亜佐子(Asako Raberg: 2011/1-2011/10), ダールマン容子(Yoko Dahlman: 2007/2-2010/12)   

高齢者の栄養不足

スウェーデンの大手新聞Dagens Nyheter(ダーゲンズ・ニューヘッテル)紙によると、スウェーデン全国の特別住宅に住む何千人もの高齢者たちが、1日に取るべき栄養を全く十分に取れていないという。

同紙のインタビューに応じたスウェーデンの高齢者・厚生保健大臣マリア・ラーション氏は、「高齢者たちは、高齢者施設において今だに全くもってレベルの低い、わびしい食事を与えられています」と認めている。
1026_1.jpg
高齢者・厚生保健大臣マリア・ラーション氏
 
高齢者や病院の入院患者たちがどれほど栄養の少なく、味の悪い食べ物を与えられているかということは、最近になって新たに活発な討論の対象となっている。スウェーデン全土の60以上の地方自治体の高齢者施設や病院に食事を提供している中央食料生産会社(Central matproducent)の食事が、どれほどひどいものかということが書かれた本なども最近になって出版され話題になっている。本によると、病院や高齢者施設に届けられた食事は、温められた後15分以内に食べきられなければ、その後は命に関わる深刻な危険が出てくると言われているそうだ。
 

栄養失調が自治体に与える影響

『地区看護士団体(Distriktsskoterkeforeningen)』は、栄養失調について以下のように述べている。
 
「栄養失調の最も一般的な原因は、必要とされるエネルギーや栄養の摂取量が低すぎることである。病院に入院している患者の4分の1には栄養失調の兆候がみられる。中でも、それは主に重病患者及び高齢者に多くみられる。さらに、高齢者のためのサービスハウス、高齢者住宅、また介護施設に住む高齢者たちの間でも、非常に高い割合で栄養失調、または栄養不足の危険がある人が見られる。
 
栄養失調は、病気に対する体内の自己抵抗力を低める。体重の大幅な減少、たんぱく質と脂肪の貯蓄量の減少は、エネルギーのバランスを崩し、筋肉を衰弱させ、虚弱や精神的衰弱、ディプレッションの原因となる。また栄養不足は、褥瘡やその他の病状の併発を促し、それによって治療期間が長期化し治療費用も高くなる。」
 
 1026_2.jpg
 
地区看護士団体のホームページ
 
さらに、ある栄養士グループは、すべての自治体の高齢者福祉事業に栄養士と管理栄養士が常駐する必要がある事を主張している。これは、高齢者たちが必要な栄養を十分取り入れることで、無駄な薬の摂取を防ぐことができ、必要のない長期治療を避け、また最悪の場合の早すぎる死を防ぐことができるためである。
 
これらの栄養士グループによると、現在高齢者特別住宅に住む71,500人以上の高齢者たちが、必要とされる栄養が全く足りていない食事を食べさせられているという。
 
「今日のスウェーデンの高齢者福祉システムは柔軟性にかけるため、多くの高齢者たちは、自分たちが何を食べるかという選択に影響を及ぼせないことになっています。」ウプサラ大学の栄養士・医療博士であるアニヤ・サレッティ氏によると、高齢者たちが自分たちがこれまでの人生で慣れ親しんできた食べ物が、慣れている味付けで、なじみのある形で出されることでその食欲を高める効果があるという。
 

予算不足の自治体

マリア・ラーション氏はダーゲンス・ニューヘッテル紙のインタビューの中で社会福祉局が政府のために行った14万人の高齢者を対象としたユーザー調査の結果に触れた。
 
「調査の結果では、高齢者施設での食事は、高齢者たちがもっとも不満を持っている2つの分野のうちの一つとなっています。食事の質が、今だに低すぎるのです」と彼女はいう。
 
近年、多くの自治体が予算を節約するために高齢者施設での食事に関する予算を削減しているという事実が見られるらしい。それにより、事態はさらに深刻化している。「長期的に見れば、その方向性は自治体にとって経済的に良いとは、私には思えません。」とラーション氏は語る。高齢者が健康でいることが結果的に自治体の高齢者福祉の費用削減につながるのだ。
 
ラーション氏は、近い将来、高齢者施設に住む住人各自がメニューを決めることができ、いくつかの料理から選ぶことができ、またもし希望すればその調理にも参加できるようにしたいと考えている。そのためには、政府の予算の中で年間13億クローナ(=約169億円、1クローナ13円計算)を、自治体における高齢者福祉、特に食事を改善させるための刺激材として確保するべきだと考えている。
 
 
 
スウェーデン首相、フレデリック・ラインフェルト氏
 
しかし現スウェーデン首相、フレデリック・ラインフェルト氏は高齢者福祉の管理・運営は自治体の責任下にあると指摘した上で、現在の高齢者施設での食事の改善の解決の鍵は、そこで働く従業員と、住んでいる高齢者たちが食事に関してより大きな影響力を与えられることにあるという考えを述べている。
 
「高齢者施設や病院での食事の改善のためには、地域的な自己決定力と、施設で働く従業員により大きな影響力を与える事、そして高齢者たちが今まで以上に食事に関しての視点や意見を反映させることができる可能性をもたせることが重要であると考えている。」
 

高齢者を対象とした健康補助食品

このような状況の中で、市場には栄養が不足している高齢者を対象とした新しいビジネスも生まれている。「Procordia Food AB(プロコルディア・フード株式会社)」が提供する、「Energi Liva(エナジー・リーバ)」という健康補助食品シリーズは、栄養不足の高齢者を対象としたものだ。高齢者に不足しがちな栄養が、手軽に取り入れられるようになっている。
 
 1026_4.jpg
 
Energi Livaのホームページ。ホームページでレシピなども見られる。http://www.liva.se/energi/ 
 
現在この会社が提供しているのは6種類の食品だ。ファーマーズオムレツ、チーズとブロッコリーのスープ、マッシュポテト、アップルパイ、ローズヒップドリンク、アップルジュースだ。これらはどれも、スウェーデンに昔からある一般的な料理で、高齢者が長く親しんでいる味ばかりだ。また、調理が簡単で、柔らかいものというように、高齢者が実際に利用しやすいように工夫されている。
 

まとめ

スウェーデンの高齢者福祉は基本的に全てが自治体の管理下におかれている。そのため、高齢者福祉の予算が少ない自治体では高齢者の栄養不足問題が深刻になっている。問題解決には政府や自治体主導の大掛かりな改善が必要と思われる。しかし一方で、このような問題が明確になる事で、市場においては新しいビジネスチャンスが生まれていくことも事実のようだ。

ページTOPへ