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ヨーロッパ高齢者事情研究のため、2007年2月ストックホルムシニアライフ研究所を開設しました。
現地から最新の高齢者事情をレポートします。

中央政府の高齢者満足度調査

松下泰志(Taishi Matsushita: 2012/1-), セスレ真美(Mami Sessle: 2011/11-2011/12),
ローベリ亜佐子(Asako Raberg: 2011/1-2011/10), ダールマン容子(Yoko Dahlman: 2007/2-2010/12)   

 高齢者満足度調査実施の背景

スウェーデンに住む高齢者たちは基本的には自分たちの高齢者住居や介護サービスに満足しているということができる。スウェーデン社会福祉局(Socialstyrelsen)はスウェーデン中央政府の要請を受け、高齢者を対象に介護や高齢者医療、高齢者福祉に関する全国規模のアンケートを行った。
 
スウェーデンでは、2006年9月の総選挙でこれまで12年間にわたり政権をとっていた社会民主労働党にかわり、穏健党を中心とした中道右派が政権をとった。それ以来、国による高齢者福祉事業は様々に変化してきたが、主な方向性としては、より高齢者たちの選択の自由を高め、また各地方自治体ごとに行われている高齢者福祉事業をよりオープンな環境におき、各自治体の事業を容易に比較検討できるようにしてきた。
 
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2006年に当選した中道右派の新政権内閣の顔ぶれ
 
このようにオープンな環境で比較を行う事で、政府の投資が実際にどのように高齢者たちのニーズに応えているかを知ることができるようになる。そしてまた、市民、高齢者、そして様々な組織のニーズが高齢者福祉というプロジェクトにどのうように関わっているのかを明らかにすることができる。また、比較調査を行う事で、その結果は高齢者福祉・介護の質を高めるための道しるべとなる。2008年に第1回が行われた政府主導の「高齢者満足度調査」は、2010年、第2回目の調査が行われた。
 

高齢者満足度調査

2008年に行われた第1回調査では全国の自治体に約14万のアンケートが配布された。そして今回、2010年3月?6月にかけて第2回目のアンケート調査が実施された。そのアンケートの結果は、スウェーデン中央統計局(SCB)で分析が行われ、11月に自治体ごとの統計がスウェーデン福祉局のホームページで公開された。調査は、主に『自宅介護サービス』と『高齢者住居』に焦点が絞られている。
 
印刷版は117kr(約1500円)で購入可能な調査結果のまとめ
 
今回の第2回目のアンケート調査では、全国の自治体に146,809のアンケートが配布された。そのうち、86,580は自宅介護サービスを受けている高齢者に配布され、約70%ほどの回答率が得られた。さらに、57,229は高齢者住居に住む高齢者に配布されたが、回答率は58%となった。高齢者住宅に住む高齢者の多くは健康上の問題や低下した身体的能力の問題で調査の質問に正確に回答することが難しかったためである。中には、高齢者の家族親族が代わりに答えたケースもある。
 
調査では、主に以下のようなことが明らかになった。
 
・自宅介護サービスを受けている高齢者は基本的にはサービスに満足している。自宅での安心感やサービスを提供する人に対しての信頼感なども高い。その他、「福祉や介護への影響力」という分野も高い評価を受けた。それに対して低い評価を受けた分野は、『情報へのアクセスの容易さ』と『社会的交流』である。
 
・高齢者住居に住む人々は、基本的な部分では満足している。彼らは住居内で安心感を得ており、必要がある場合にはスタッフにコンタクトをとることが容易にできると感じている。低い評価を受けた分野は、『社会的交流』や『アクティビティ』、『影響力』や『情報へのアクセスの容易さ』などである。
 
「今回の調査結果は、2008年に行われた第1回の調査結果と同じ線上にあるということが言えます。調査結果をさらに信頼性のあるものにするために、より詳細な分析を行う必要があると考えています。」社会福祉局のプロジェクトリーダー、ウェラート・ソンガー(Welat Songur)氏は言う。
 
また、社会福祉局の担当部長ペトラ・オッテルブラード・オラウソン(Petra Otterblad Olausson)氏は、この調査は高齢者福祉や介護の質について検討するための適切な出発点を明らかにしてくれたと強調した。
 
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調査担当部長のペトラ氏
 
「この調査のおかげで、それぞれの自治体が高齢者福祉や介護についてどの分野に最も力を入れて改善を行っていけばいいのかということを見分けることが出来るようになったと思います。」ペトラ氏は語る。
 

調査の結果分析

今回の調査で、高齢者たちは基本的には自宅介護サービス及び高齢者住居について満足しているということがわかった。自宅介護サービスの満足度の平均は1から100のスケールで75ポイントとなり、かなり満足しているということができる。2008年に行われた調査での満足度平均は73ポイントで、やや上昇している。高齢者住居についての満足度平均は72ポイント、こちらも2008年の70ポイントからやや上昇傾向にある。
 
さらに細かく見ていくと、自宅介護サービスの分野には7つの評価対象があり、高齢者住居については12ある。そのすべての満足度が上昇している。唯一第1回調査と同じポイントとなったのは『高齢者住居内での医療サービス』の分野であり、それは2008年時点にすでにかなり高い満足度である84ポイントを得、今回も同ポイントだった。
 
・自宅介護サービス
 
自宅介護サービスにおいて、最も高い評価を受けた分野は『自宅での安心感』と『スタッフの対応』で、両分野ともに83ポイントだ。『サービス内容の範囲』と『どのように実行されるか』の分野も高く、79ポイントだ。『サービスへの影響力』は72ポイント、『情報への満足度』は65ポイント。最も満足度の低い分野は『社会的アクティビティ』だが、この分野でも以前の52ポイントから今回の60ポイントへの上昇が見られる。
 
・高齢者住居
 
高齢者住居に関しては、最も高い満足度を得た分野は『住居内での安心感』83ポイントと『介護への投資』84ポイントである。『住居環境』の平均的な満足度は80ポイントで、『スタッフの対応』については78ポイントだ。『食事』は低い評価だが、これも以前の54ポイントから63ポイントへ大きく上昇している。高齢者住居に関しても、もっとも満足度の低い分野は『社会交流』と『アクティビティ』だが、これも以前の56ポイントから52ポイントへと僅かながらに上昇している。高齢者たちは明らかに介護・福祉の社会的交流の内容や可能性についてもっとも不満を持っており、例えば「自分の望む時間に外出できる可能性」などに関して不満を持っているようだ。
 
全国の平均的な満足度は高く、また上昇傾向にあるが、重要なのは各自治体がそれぞれの結果を細かく検証し、また様々な分野を細かく見ていくことである。また他の自治体の結果との比較を行うことも、改善のためにはとても重要なことだといえる。
 

問題のある分野

また、この調査により最も問題がある分野も明らかになった。主に健康状態の悪い高齢者たちには全体的に満足度が低いと言う共通点がある。健康状態の悪い高齢者の不満足というのは、介護や福祉が彼らにとって十分なアクセサビリティを持っていないことを表していると考えられる。そのため、彼らは自分自身の健康状態が悪いという悪状況に加え、介護や福祉が彼らのニーズに合うものではないという2重の悪状況の中にいるということになる。
 
この状況は、スウェーデン中央政府が以前から考えていた、複合的で複雑な健康問題を持つ高齢者の状況と一致する。そのため、政府は今後4年間において、もっとも健康状態の悪い高齢者のための投資を行っていく事を考えている。高齢者・厚生保健大臣マリア・ラーション氏は以下のように語る。
 
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高齢者・厚生保健大臣マリア・ラーション氏
 
「高齢者福祉において、健康状態の悪い高齢者たちへの対応を改善していくことは最も重要な最優先事項であると判断できます。そのために、政府は今後彼らへの投資を行っていきます。具体的には、例えば自治体レベルと郡レベルが協力体制を強め、複合的な健康問題をもつ高齢者たちをサポートしていくようシステム改善を行っていきます。」
 
今後も定期的に再調査を行っていき、比較検討をつづけていく予定だが、現時点においてまずは2008年、2010年の調査から得た結果を分析し、対応策を実行に移していくことが重要だとスウェーデン中央政府は考えている。
 
「今回の結果により、スウェーデンの高齢者福祉における満足度が上昇しているという結果が出たのは、非常に喜ばしいことだと思います。少なくとも、私たちは正しい方向に向かっていると考えることができますから。」とラーション氏は話す。
 

まとめ

世界的には高福祉のイメージが強いスウェーデンであるが、国内では高齢者福祉に関して様々な問題が提示され、またメディア等でネガティブな面が報道されることも多い。
 
現状に甘んじることなく、常に前向きに問題点を探し、それを改善していこうとするスウェーデン政府の姿勢には将来への希望を感じることができる。この政府での改善運動は現在はまだ始まったばかりだが、スウェーデンの介護・福祉分野が、より高齢者たちの期待やニーズに応えられるように改善を模索し続けていくだろう。そしてそれは、高齢者福祉のみではなく、国民全体への福祉事業全体を根本から改善していくことにつながっていくのではないだろうか。

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