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ヨーロッパ高齢者事情研究のため、2007年2月ストックホルムシニアライフ研究所を開設しました。
現地から最新の高齢者事情をレポートします。

定年退職者に平等な税制を!

松下泰志(Taishi Matsushita: 2012/1-), セスレ真美(Mami Sessle: 2011/11-2011/12),
ローベリ亜佐子(Asako Raberg: 2011/1-2011/10), ダールマン容子(Yoko Dahlman: 2007/2-2010/12)   

 定年退職者の所得税

「ゆりかごから墓場まで」。そんな定説に、スウェーデン社会は守られていると信じている日本人は、少なくないのではないだろうか。しかし、国の福利厚生を充実させるためには、その穴をどこかで埋めなければならない。例えば消費税。スウェーデンの消費税は25%(食品は12%)と日本の5倍にもなる。所得税も日本に比べて高い。
 
その所得税が、現在スウェーデンで問題となっている。というのも、スウェーデンの定年退職者が、定職者よりも多く所得税を払っているという事実が明らかになったからだ。スウェーデン国民は、現在その動向を注目している。
 
例えば2011年、毎月14,000クローナ(約168,000円)の年金を受け取っている人は、同収入の定職者よりも約313クローナ(約3,760円)多く所得税を支払わなければならない。2010年の時点では、その差はなんと700クローナ(約8,400円)もあった。今年に入って、政府は定年退職者に対する税金の引き下げを行ったものの、この減税に該当するのは、65歳以上の定年退職者に限られており、65歳未満の定年退職者は、これまでと変わらない。以下の表から、定年退職者と定職者との所得税の差がよく分かる。
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PRO(全国年金組合)のカール・パーション氏は、「政府は75億クローナ(約900億円)を費やし、定年退職者の所得税減税を計かり、定職者との差は縮まったものの、いまだ平等にはなっていない。そしてさらに2011年から、定年退職者の年金は4,3%引き下げられてしまうのだから、さらに不合理な税差が生まれる」と語る。
 

定職者の所得税を上回るのはスウェーデンだけ

PRO(全国年金組合)は、ストックホルム大学の社会調査研究機関のカタリーナ・ヴェソロスキー氏に、EU15カ国とその他3国ノルウェー、アメリカ、オーストラリアの計18カ国の定年退職者と定職者の所得税の差の比較を依頼した。その結果、定年退職者の所得税が定職者よりも上回るのは、スウェーデンだけだった。
 
オーストラリア: −10% 
ベルギー: 定職者よりも低いが、計算困難
デンマーク: −7 % 
フィンランド: −1 % 
フランス: −13 % 
ギリシャ: −12 % 
アイルランド: 65歳以上の定年退職者に対して、大幅な税控除
イタリア: −7 % 
ルクセンブルグ: −6〜9 % 
オランダ: −15 % 
ノルウェー: −6〜11 % 
ポルトガル: −11〜15 % 
スペイン: ほぼ同じ
イギリス: 平均的な年金額の場合ほぼ同じ。高額年金額の場合−11%
スウェーデン: +4,2〜5 % 
ドイツ: −18 % 
アメリカ: 州の社会保険システムによる年金は、ほとんど税金がかからない
オーストリア: −8〜9 % 
 

人々の怒り

この不平等な税制に抗議するため、各地方で多くの定年退職者が反対デモに参加した。2010年4月には、PRO(全国年金組合)が主催したデモに、約3500人の定年退職者が参加した。デモの列は、宮殿と国会が見渡せるクングストレードゴーデンの広場からスタートし、約1時間かけてミントトーリエットまで続いた。
 
宮殿前の広場に集まるデモ参加者達
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犬も抗議?
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90歳の元気なおじいちゃん(エイナル・オルソンさん)もデモに参加

税差をゼロに

社会民主党の元党首(2010年11月に辞任)モナ・サリーン氏は、2014年までに定年退職者と定職者との税差をゼロにすると宣言した。
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モナ・サリーン氏
 
またサリーン氏は、定年退職者の現状についてこう語る。
「定年退職者達は、われわれ若者達のために、これまで福祉と国の発展を支えてきてくれた。私達にとって、働いて給料をもらうのがあたりまえなように、彼らも今まで働いてきた報酬をもらうのは当然だ。退職金は補助金ではなく、給料の延長線のようなもの。そして 広い視野をもって彼らの現状を見直すべきだ。
柔軟性のあるワークライフ - 働きたい人には、定年退職年齢以降も仕事を続けられる環境を作る。
セキュリティ – いつでも必要な時に、福祉的ケアしてもらえるという体制を作る。
住居 – それぞれの人にあったライフスタイルを確立する。そのためには、豊富な住居提供が求められる。それは個人の経済のみならず、人々に可能性を与えるためのキーポイントとして、たとえ仕事から年金生活に変わったとしても、より豊かな生活を営むことだ。だから年金は給料の延長線であり、定職者よりも税金が高くあってはならない。」
 

フレドリック・レインフェルト首相は…

一方、保守党所属のスウェーデンの首相フレドリック・レインフェルト氏は、2011年の定年退職者の所得税引き下げを実現したものの、定職者との税差を将来的にゼロにすることに対しては、はっきりと表明していない。
 
レインフェルト首相は、2006年以来、毎年定職者の税金引き下げを実施している。働いている人の労働力で国を支えているのだから、彼らの税金を引き下げることが優先されるべきであり、働いていない人(定年退職者、病気で長期働いていない人、育児休暇の人など)は、定年退職者に限らず、定職者よりも税金を多く払うべきであるというのがその理由だ。
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フレドリック・レインフェルト首相
 

まとめ

税金は国の経済を支えるためになくてはならないものではあるが、税金問題を解決するのは簡単ではない。 スウェーデンは他の国と比べると、福祉がかなり充実していて、老後も住みやすい国の1つだ。しかし、定年退職者の所得税が、定職者よりも高いということは、やはり見直すべき問題だろう。2010年は選挙があったため、この定年退職者所得税の問題が多く取り上げられたが、「票稼ぎ」のためだけに終わらないことが大切だ。2014年までに、多くの老人が安心して暮らしていけるような税制改革が行われることを期待したい。

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