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ヨーロッパ高齢者事情研究のため、2007年2月ストックホルムシニアライフ研究所を開設しました。
現地から最新の高齢者事情をレポートします。

スウェーデンシニア世代と情報テクノロジー(4)

松下泰志(Taishi Matsushita: 2012/1-), セスレ真美(Mami Sessle: 2011/11-2011/12),
ローベリ亜佐子(Asako Raberg: 2011/1-2011/10), ダールマン容子(Yoko Dahlman: 2007/2-2010/12)   

新テクノロジーへの不安

インターネット普及率の高さを誇るスウェーデン。一部の病院の予約やクレジットカードの支払いなど、あらゆる場面でインターネットの必要性を感じさせられる。シニア世代の間でも、他国と比べてインターネットの使用率は高いスウェーデンだが、技術進歩の早さに追いついていけない人たちは少なくない。スウェーデンでは、インターネットを使うことができない、または使いたくないという人が、人口約800万人のうち約200万人いるといわれている。

ノルショーピンの大学講師であるヤンエリック・ハーグベーリ (Jan Erik Hagberg)氏 とパトリック・エルンフリードソン(Patrik Ernfridsson)氏は、スウェーデンのシニア世代が近年の情報テクノロジーをどう考えているのか、またその日常的使用の変化をどう見ているのかを調べた。

 ヤンエリック・ハーグベーリ氏

インタビューに答えたのは、PRO(全国年金組合)のメンバー13名だ。このメンバーは1930年代〜50年代に生まれ、 当時の生活でお湯を使っていた家庭は13名のうち3名、電話があったのは5名という小さな田舎町で育った人たちばかりだ。
 
現在住んでいるアパートに、お風呂と洗濯機があることがスタンダードな革新である彼らにとって、携帯電話やパソコン、インターネットといった最新技術は、あまりにも日常生活とかけ離れた存在であり、それによる影響力はそれほど大きくはないようだ。それでも、携帯電話は12名が持っており、パソコンやインターネットを使っている人は5名いた。
 
このインタビューで明らかになったのは、移り変わりの早い情報テクノロジーに対するシニア世代の”不安”であるとヤンエリック・ハーグベーリ氏は語る。「テクノロジー世界と個々のテクノロジーに対する状況の間は緊迫していると思います。ひとりひとりがテクノロジー進歩について行く必要性を理解しているのに、新しいシステムを学ばない。それと同時に主要な日常テクノロジーは、驚くべき早さで進歩して行くのです。さらにシニア世代の人たちは、現在使用している物が壊れない限り、新たなテクノロジーを取り入れる準備ができていません。」
 
「現代のテクノロジーはすばらしい。しかし私にはあまり関係のないこと。」これがほとんどのインタビューの回答者から返ってきた答えだった。この回答は新テクノロジーへの不安だけを反映しているのではなく、シニア世代の人たちの経験や考え方も影響していると思われる。ヤンエリック・ハーグベーリ氏の言うように、彼らは物を大切にすることを学び、使用不可能になるまで捨てることはしない世代であるからだ。
 

現金での支払いは困難に

多くのシニア世代は、年金の受け取りや毎月の支払いを銀行窓口で済ませたいと考えている。その反面スウェーデンの大多数の大手銀行では、窓口での現金取り扱いを縮小していく考えを示している。その理由としては、犯罪防止や運営維持コストの問題などが挙げられる。
 
国立中央銀行(Riksbanken) によると、年間の現金取り扱いにかかるコストは、650万クローナ(約8千450万円)にのぼる。これに含まれるのは、送金、紙幣発行、消費コストだが、数値は8年前に打ち出されたもので、現在の年間コストは明らかではない。
 
その他大手のノルディア(Nordea)銀行、SEB銀行、スウェドバンク(Swedbank)も、少なくとも窓口での現金取り扱いの縮小化を試みている。
 
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SEB銀行広報担当者のエヴァ・オーデファルク(Eva Odefalk)氏は、窓口での現金取り扱いが縮小されたのは事実だが、総合的に見ると縮小されたとは言えないと言う。「お客様は窓口の代わりにATMで現金の振込や引き出しができますし、強盗などの犯罪防止のためにも現金取り扱いの縮小化は、お客様には十分ご理解いただいていると思います。」
 
ノルディア銀行広報担当者ヘンリク・エドストローム(Henrik Edström)氏は、現金取り扱いが今後全くなくなるということはないが、かなり縮小されると予想している。「今後われわれは、郵送郵便振替や銀行カード、インターネットバンクまたは銀行内でのインターネット払いを推奨していきたいと考えています。」
 
スウェーデン年金連合会(SPF)の環境アナリスト、グンナル・デーイェルマン氏は、個人の銀行口座の現金取り扱いができなくなると、どうしていいのか分からなくなってしまうシニア世代の人々は少なくないと言う。「彼らは全ての年金を窓口で引き出して、銀行カードを持つなど考えたこともない世代なのです。」しかし、問題はそれほど深刻ではないとも言っている。「年金を引き出す方法は、他にもたくさんあります。例えば、スーパーやガソリンスタンドで現金引き出しや振込ができます。農村地域では、郵便配達員によって銀行窓口と同じことができる仕組みになっています。」
 

シニアによるシニアのためのパソコン教室

シニアサーフとは、55歳以上の人のための無料のいわゆる「パソコン教室」だが、普通のパソコン教室と少し違う点で注目を集めている。シニアサーフのモットーは、”シニアによるシニアのためのパソコン教室”。つまり、インストラクターもシニア世代ということだ。
 
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このパソコン教室は、営利目的ではなく、企業支援や会員の会費でシニアのためにサービスを提供しているシニアネットが運営している。プロジェクト責任者のラーシュ・フォ−スマルク(Lars Forsmark)氏は、1人でも多くのシニア世代にパソコンに興味をもってほしい。難しく考えず、マウスをどうやって使うのかという基本から知って、少しでも楽しんでほしいと話す。
 
シニアサーフのインストラクターを務めるスヴェンオーケ・ビョルク(Sven-Åke Björk)氏は、現在71歳。彼もシニアサーフを通して、パソコンの基本を習った生徒の1人だ。ビョルク氏によると、毎年たくさんのシニア世代の人たちが、シニアサーフを訪れると言う。しかし最近のシニア世代は、以前に比べてパソコン慣れしている人が多く、基本知識が豊富な人は珍しくないようだ。「今のシニア世代は、ほとんどがパソコンで仕事をしていた人たちです。私が1996年に定年退職した時は、そうではなかった。シニアサーフのインストラクターを始めた時は、王様扱いされたものだが、今はまったくです。」ビョルク氏は笑って話す。
 
パソコンに対する質問は、どうやってメールを送るのかというものからウィルスやセキュリティについてまでさまざまだが、すべてインストラクターによって丁寧に教えてもらうことができる。さらに、シニアサーフのもう一つの目的は、社会交流であることも事実だ。シニアネットのクラブメンバーは全国に7000人という人気で、メールをしたり、ランチをしたり、シニア世代の交流の場を広げていくことにも貢献している。
 

パソコンへの興味の増加

ペルストルプにある成人のための学校(Vuxenskolan)で働くロルフ・二ルソン(Rolf Nilsson)氏は、デジタルフォト処理のシニアクラスで大人気のインストラクターだ。ここでは、色々な写真の編集技術を学ぶことができる。例えば簡単な操作で、着ている服の色を好きな色に変えることができるといった、シニア世代には考えられないような技術を通して、パソコンに興味をもつ人が増加の傾向にある。また、パソコンゲームも人気の一つで、ほとんどのシニア世代の人が知っている数独やバックギャモンをパソコンでプレイすることによって興味をもつ人も多いようだ。
 
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ロルフ・二ルソン氏にレクチャーを受けるハーマン夫妻
 
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少人数で落ち着いた雰囲気の教室
 
いよいよシニア世代にも、テクノロジーブーム到来かという流れが見え始めると、さらに新たな問題も挙げられる。ただでさえ家に閉じこもりがちになるシニア世代が、パソコンに熱中するあまり、さらに社会から孤立してしまうということだ。
 
そこでシニア世代のために、テクノロジーを取り入れたオリエンテーションが考えだされた。普通のオリエンテーションは、地図を見ながら色々な指示に従って、森の中を走ってゴールを目指すゲームだが、シニア向けオリエンテーションは、GPS(ナビゲーションシステム)を使ってゴールを目指すというものだ。
 
何人かのシニア世代をテストしてみた結果、以下のような効果が現れたことも分かった。
 
- 以前よりも元気になった 
- 記憶力が高まった
 
このGPSオリエンテーションは、運動能力と脳の活性化の両方を同時に高めることができ、辛いトレーニングなどよりも楽しんでできるテクノロジースポーツといえる。
 

まとめ

若者でさえ戸惑ってしまう程の、情報テクノロジーの進歩の速さは目まぐるしいものがあるが、シニア世代が社会から孤立してしまわないよう、色々なアイデアと工夫で現代のギャップをなくそうという努力が見られるスウェーデン。これからシニア世代に突入する人たちは、情報テクノロジーの世界で生きてきた人たちだ。しかしそれでも、日々進化するテクノロジーの早さについて行けず、戸惑う世代になってしまうのかもしれない。シニアのためのテクノロジーに対するレクチャーは、これからも必要とされていくだろう。

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