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ヨーロッパ高齢者事情研究のため、2007年2月ストックホルムシニアライフ研究所を開設しました。
現地から最新の高齢者事情をレポートします。

認知症患者を支える施設

松下泰志(Taishi Matsushita: 2012/1-), セスレ真美(Mami Sessle: 2011/11-2011/12),
ローベリ亜佐子(Asako Raberg: 2011/1-2011/10), ダールマン容子(Yoko Dahlman: 2007/2-2010/12)   

認知症とは

認知症は、後天的な脳の器質的障害により、いったん正常に発達した知能が低下した状態をいう。日本ではかつては痴呆とよばれていた。単に老化に伴って、物覚えが悪くなるといった現象は含まれず、病的に能力が低下するもののみをさす。

スウェーデンでは、現在15万人(人口8百万人)の認知症患者がいる。毎年約2万人の人々がこの病気にかかるといわれ、2025年には18万人、2050年には24万人に増加すると予想されている。
 
男女別認知症患者のグラフ
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 世界4大陸の認知症患者の割合を比べたグラフも興味深い。 
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シルビアヘンメット

シルビアヘンメットは、介護理念を基本とした認知症に対する看護士のスペシャリストを教育する目的で、1996年にスウェーデン国王妃シルビアの発案によって設立された。バールブロ・ベックフリース女教授のもとで1年間教育を受けた看護士は、シルビア王妃によって認められた者として、「シルビア看護士」という称号を受けることができる。1996年から2001年の間に34名のシルビア看護士が卒業している。
 
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シルビアヘンメットのホームページ www.silviahemmet.se(日本語あり)
 

認知症患者の日常をもっと楽に

認知症に対する知識は溢れ返っているものの、具体的に実践化できる知識は少ないという現実。シルビアヘンメットでは、認知症に対する全ての基本知識を取りまとめ、認知症患者に対する活動を先立って行っている。
 
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シルビアヘンメットは、ドロットニングホルムの500?もある広い敷地内に建っている。毎日多くの認知症患者が、シルビアヘンメットでのリハビリテーションを希望してやってくる。「ここでは最初にひとりひとり個別に診断いたします。そして一緒に何かをする、例えばみんなで一緒にお料理をして、落ち着いた雰囲気の中で食事をしたりします。食事の間も、これはポテト、これはサラダといったように、丁寧に単語を取り上げるようにして認知症へのリハビリテーションを計ります。」とシルビア王妃は語る。
 
シルビア王妃がここを訪れると、みんな喜んで迎えてくれるのが分かると王妃は笑顔で話す。シルビア王妃は、ほとんどの訪問者と仲良くなり、彼らのバックグラウンドも熟知している。認知症患者の中には、シルビア王妃のことをスウェーデン国王妃だとは全く知らずにいる人もいるという。
 
ここで過ごす時間をより快適なものにするために、完全設備が整った特別な部屋がある。その特別部屋の設備とは、
 
 - 赤い枠で囲った電気のスイッチ
 - 夏時間冬時間が自動的に切り替わる時計
 - 壁に覚え書き用ホワイトボードと週替わりカレンダーを設置
 - ボタンが見やすくて大きなリモートコントロール
 - 毎日の薬の量が分かるピルケース
 - 自動タイマー付きレンジ
 - 電池の残量が見えるランプ
 - 夢遊防止コードナンバー入力式ドアロック
 - ベッドに横たわると自動的に点灯するベッドランプ
 - トイレの便座を青色に
 - 洗面所の鏡をカーテンで隠す(鏡に映った自分の顔が認識できない場合があるため)
 

シルビア王妃の体験談

シルビア王妃が認知症を真剣に考えるようになったのは、自身の母親が約13年前に認知症になった背景があるからだという。
 
- シルビア王妃の体験談 -
 
私の母が最初に認知症の症状を見せた時、私はそれに気が付きませんでした。偶然バールブロ・ベックフリース女教授と出会い、母を検査してみた方がいいと勧められ、初めて認知症について考え始めました。当時は、老人は物忘れが激しくなって当たり前という時代で、認知症の検査などというものはあまり行われていませんでした。親族達は、母の変化には気付いていませんでしたが、その後症状はだんだん悪化していったのです。
 
父が亡くなった後、母は夏の間私たち家族と一緒に過ごしました。母はもう一人で住める状態ではなく、食事をしている間も何も話さなくなりました。そして何度も何度も同じことを尋ねるのです。「あなたのお父さんはどこにいるの?」
 
私は常に、父は亡くなったという事実を話すことに徹しましたが、母はますます困惑していくばかりでした。バールブロ女教授に相談したところ、母を考えさせてはいけないという助言を頂きました。そこで私は、父がしてくれたすばらしかったことばかりを母と一緒に話すようにしたのです。
 
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シルビアヘンメットを訪れたシルビア王妃
 
そんな自身の体験をもとに設立したシルビアヘンメットは、現在国際的にも認められる、認知症の中心的存在となっている。日本からも毎年、家族に認知症患者をもつ多くの人がシルビアヘンメットを訪れる。また4年前には、2人のシルビア看護士がスウェーデンから日本を訪れたこともある。
 

まとめ

認知症だけでなく、高齢者が快適な生活を送ることができるよう、さまざまなヘルプツールが生み出されているスウェーデン。最近では、電話をかける相手の名前や電話番号が思い出せない時のために、電話機本体のスクリーンに写真をインストールし、電話をかけたい相手の写真をクリックするだけの電話が開発された。
 
しかし「便利グッズ」だけでは認知症患者にとって普通の生活を送ることは難しい。これに平行してシルビアヘンメットのような「人の手」は、認知症患者の不安を取り除くのに必要不可欠な存在といえるだろう。認知症に対する活発な活動を行ってきたシルビア王妃は、国際的リーダーとしてこれからも認知症に対する知識を広げ、活動を続けていく意志を示している。

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