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ヨーロッパ高齢者事情研究のため、2007年2月ストックホルムシニアライフ研究所を開設しました。
現地から最新の高齢者事情をレポートします。

スウェーデンの年金制度(3)

松下泰志(Taishi Matsushita: 2012/1-), セスレ真美(Mami Sessle: 2011/11-2011/12),
ローベリ亜佐子(Asako Raberg: 2011/1-2011/10), ダールマン容子(Yoko Dahlman: 2007/2-2010/12)   

定年退職年齢引き上げ問題。定年退職年齢67歳から69歳に。

スウェーデンでは、一般的に65歳で定年退職する人が多い。しかし、61歳からの早期年金受給から法的定年退職年齢の67歳まで、選択肢は幅広い。

2011年2月、社会民主労働党社会保障大臣のウルフ・クリステルソン (Ulf Kristersson) によって、政府は定年退職年齢の引き上げを進めて行く考えを示していることが発表された。詳細はまだ確定していないものの、高齢化に対する現役世代の負担はもちろんのこと、近年平均寿命が伸びたことを理由に、法的定年退職年齢を67歳から69歳に引き上げるという目標は定まっているようだ。
スウェーデン国会は、与党の保守党(フレドリック・レインフェルト首相所属)、自由党、中央党、キリスト教民主党、スウェーデン民主党、野党の緑の党、社会民主労働党、左党の8つの政党から成る。定年退職年齢引き上げについて各政党の意見は以下の通りだ。 
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各政党のシンボルマーク
 
Q. 定年退職年齢を引き上げるべきだと思いますか?
 
保守党 – はい。1990年代以降、平均寿命が2年伸びている。したがって、67歳から69歳に引き上げてもいいのではないか。健康な高齢者の中には、法的定年退職年齢よりも長く働きたいと思っている人もいる。今後さらに、定年退職年齢が引き上げられていく可能性は大きいと考えられる。
 
自由党 – はい。69歳が妥当だと思われる。現時点の67歳よりも長く働ける職種は多い。また、高齢雇用者の経験と能力は必要不可欠なものであり、年齢引き上げに値する。
 
中央党 – 法的定年退職年齢を設定すること自体賛成できない。フレキシブルな定年退職年齢にすることが望ましい。もっと自由な労働市場であるべきだ。
 
キリスト教民主党 – はい。70歳が妥当だと思われる。しかし、労働市場関係者の協力のもとで実施されることが最も重要だ。
 
スウェーデン民主党 – 現時点で法的定年退職年齢を引き上げることは、それほど重要なことではない。スウェーデン国内に対策を絞るならば(EU加盟国の影響を受けることなく)、多くの高齢者は65歳まで働くことができるのではないかと思われる。
 
緑の党 – この件に関しては、党内では確実なことは何も決まっていないが、60歳から70歳までのフレキシブルな選択肢を作ることが望ましいのではないだろうか。
 
社会民主労働党 – 法的定年退職年齢を分析することが現在の主要問題ではない。最も重要なのは、多くの高齢者が65歳まで働くことができるということと同時に、現在行われているような莫大な無駄な保障制度を防止することだ。
 
左党 – いいえ。まず、年金受給者にとって的確な年金システムを作ることが大事であって、政治家のためではないということ。現在の年金システムでは、次の世代の人たちが妥当な年金を受け取るには、確実に69歳から70歳まで働かなければならないだろう。
  

国民の定年退職希望年齢

プライベート年金会社コレクトゥム (Collectum) によって、スウェーデン国内の雇用者1000人にアンケートが行われた。「あなたは何歳で定年退職したいですか?」という質問に対して、26%の人が65歳以前、46%の人が65歳、25%の人が65歳以降も働きたい、3%の人が分からないと答えた。
下の表を見ると、2003年では65歳での定年退職が、非常に一般的であったことが分かる。それ以降徐々に、国民の定年退職希望年齢は政府の考えとは対照的に、65歳以前に退職したいという人が増えているようだ。それと同時に65歳以降に定年退職する人が増えているのも事実だ。つまり、それぞれが自分の意志で、定年退職年齢を決めたいという傾向が強くなってきていると思われる。
 
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早期定年退職を希望する人たちの多くは、工場労働者、建設工事労働者、病院、介護関係などの力仕事や不定勤務時間の中で働く人だ。
 
ヨーテボリにある大手自動車産業のボルボ株式会社 トシュランダ工場では、1994年から2006年までの間に、高齢労働者を25%減らしてきた。ここ数年でも、新たな商品が次々と生み出され、オートメーション化が進み、高齢労働者の労働環境が悪化しているという。ベルトコンベアーの前に立って仕事をしている60代の労働者はほとんどいない。止まることのない流れにのってくる仕事をこなすには、早さと柔軟性が必要不可欠だからだ。
 
効率よい労働力を確保するため、ボルボは高齢労働者に対して早期定年退職を推奨した。多くの高齢労働者は、50代で既に体の痛みや体調不良を訴えている。彼らの多くは55歳から60歳までに定年退職を希望していたため、この推奨は喜んで受け入れられた。
 
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ボルボ株式会社 トシュランダ工場
 
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早期定年退職は損か得か

定年退職年齢は、現在61歳から67歳まで自由に選択できるのだから、それでいいのではないか?今回の定年退職年齢引き上げにともなって問題となっているのは、年齢が引き上げられるとともに年金受給額が下がることにある。
 
65歳を基準として、それ以前に定年退職した場合は年金受給額が下がる。下の表の基本減額率とは、就業年数が少ない分その年齢に応じた月単位の支給率で減額される割合を示す。年金期間減額率とは、定年退職年数によって失われる減額率で、就業期間が長い人は、その減額率は当然低くなる。定年退職を早くすればする程、年金合計額からより高い年金期間減額数で割った額が差し引かれることになる。
 
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例えば、月に20万円の収入のある人が61歳で定年退職すると、その後20年間の年金受給額は毎月11,562kr (約13万3千円)となる。それに比べ、同収入で65歳で定年退職した場合、毎月15,872kr (約18万3千円)で、5万円の収入差があることが分かる。
政府の新年金システムの発表にも関わらず、早期定年退職を希望している人は増える一方で、61歳から64歳の”若き年金受給者”は、2011年12月には96000人に増えると予想されている。早期定年退職者の減少が目に見えて分かるようになるには、最低でも15年のスタンスが必要だと予想されている。
 
今日スウェーデンでは、年金受給者1人に対して3人の現役世代が支えている状態だ。つまり、彼らの収入の約18.5%が、現在の年金受給者のために支払われていることになる。今後15年以内には、年金受給者1人に対して2人の現役世代が支えていかなければならなくなると言われている。そうなると、年金受給者の年金受給額も平均収入の約37%に減るだろうと予想される。最も有効な解決策としては、増税することだが、経済成長が発展することも重要な年金システム対策となるだろう。
 

まとめ

少子高齢化問題によって、高齢者と若者の両方に負担がかかっていく現実をバランスよく保つには、今回の政府の発案は受け入れざるを得ないことかもしれない。 果たして政府の思惑どおりに、早期定年退職に歯止めをかけることができるのかどうかは分からないが、工場で働く高齢労働者のように、本人の意思でなく、やむを得ず定年退職を強いられる状況にある人たちには、何らかの救済政策が必要なのではないだろうか。 
 
20万円の収入の人が、61歳と65歳で定年退職する違いで発生する5万円の受給額の差を、多いと考えるか少ないと考えるかは個人の判断であり、早期定年退職が損か得かは、それぞれのこれからの生活のニーズに合わせて選択していくべきだろう。

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