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ヨーロッパ高齢者事情研究のため、2007年2月ストックホルムシニアライフ研究所を開設しました。
現地から最新の高齢者事情をレポートします。

高齢者の食生活(1)

松下泰志(Taishi Matsushita: 2012/1-), セスレ真美(Mami Sessle: 2011/11-2011/12),
ローベリ亜佐子(Asako Raberg: 2011/1-2011/10), ダールマン容子(Yoko Dahlman: 2007/2-2010/12)   

健康維持と栄養管理

高齢者が安心して自立した生活を続けることを可能にするには、健康維持のための適切な栄養管理が不可欠だ。高齢者の食生活における加齢変化として、以下のような身体的機能の変化がみられる。
 
- 食欲の低下
- 咀嚼力(噛む力)、飲み込む力の低下 
- 唾液分泌の減少
- 消化液の分泌量の減少
- 腸の動きの低下
- 味覚の低下(味付けの濃い物を好むようになり、糖分・塩分の摂取の増加)
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これらの身体機能の変化によって、結果的には低栄養状態となり、生活活動度が低下することにより、体重減少、筋力の低下、体脂肪の低下、感染を起こしやすくなる、などの身体的障害が発生する。
 
日本では、「年を取ると魚食を中心にして肉食は避けるべき」とよく言われていたが、最近の研究では、動物性タンパク質を多く摂取している高齢者の方が、植物性タンパク質が中心の高齢者に比べ老化の速度が遅く、病気になりにくいことが分かってきている。
 

フードパトロール隊の活動

高齢者の健康維持のためには、食生活を見直さなければならない。老人ホームやケアセンターなどの、施設の食事の実態を調査することが重要であると考えたスウェーデン年金連合会(SPF)は、フードパトロール隊を結成した。
 
調査の前に、パトロール隊のメンバーは、シニアフードの価格部門で受賞した、ヨーテボリにある三つの財団コストリーダーのリンダ・マーティンソン (Linda Martinsson) 氏によって、パトロール隊としての教育を受けた者たちだ。
 
パトロール隊は、2010年秋と2011年春に、リンショーピン (Linkoping) にある複数の高齢者施設を訪れ、そこでの食事の実態を調査した。調査の結果、食事の質はグルメ食からレトルト食品まで、各施設大きな違いがあることが明らかになった。 
 
高齢者施設において心のこもった食事が提供されないと、居住者たちは人としての尊厳を奪われていると感じてしまう 。最悪なケースでは、監獄の囚人食よりも評価が低いメニューもあるという。
 
例えば、ムールショー (Mullsjo) にある高齢者施設のメニュー 『ホームメイドのソーセージシチュー リンゴのスライスとレッドオニオン、バジルのクリームソースとアルデンテの野菜添え』 は、絶品の味だった。それに対してヴァッゲリード (Vaggeryd) のメニューは、レトルト食品の魚料理で、口にするのもためらわれるような味気ない食事だった。
 
評価は1から5の5段階評価で、5が最も高い評価とされる。重要視されるのは、もちろんどれだけおいしい食事かということだが、それと同時に、サービス、対応の仕方、サラダバーとドリンクバーの設置の仕方なども評価の対象となる。
 
調査後の感想をパトロール隊が語った。
「正直言って、想像以上に高いサービスとおいしい食事が提供されていることに驚いた。高齢者施設の食事の実態はかなり悪化していると思っていたが、13の施設のうち5つは、かなり素晴らしい食事だった。」
 
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フードパトロール隊のメンバーの1人 クルト・カールクヴィスト氏 (Curt Carlqvist)
 
フードパトロール隊のように、評価や批判をすることは大切なことだ。ある地方の政治家の母親の住む高齢者施設の食事評価が、最悪の結果だった。その施設は、その評価結果が出た後すぐに、コミューン(地方自治体)から、メニュー改善のための援助を受けることができたという。
 
今回結成されたフードパトロール隊は、来年も続けられる予定だ。次回は、1食あたりの食費や各コミューンの高齢者施設の食事に当てる経費にも、注目していきたいと意気込みを見せている。
 

ノーベル賞のシェフが作るシニアの食事

2005年にイヤー・オブ・ザ・シェフに選ばれたステファン・エリクソン (Stefan Eriksson) 氏が、2011年6月、『シニアの食事マスター・オブ・ザ・シェフ』に選ばれた。ステファン氏は、2008年のノーベル賞授与式のディナーメニューを提供したことでも有名なシェフだ。
 
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シニアの食事マスター・オブ・シェフに選ばれ、インタビューを受けるステファン・エリクソン氏
 
受賞後のインタビューに対して、ステファン氏はこう答えている。
 
Q1. 今後、シニアの食事は、どうすればもっと良くなると思いますか?
A1. シェフとしての知識と経験がとても重要だと思います。高い能力と食材に関する基本知識さえあれば、どんな場所でも(老人ホームのような大量生産が必要な場所であっても)料理はできるものだと考えています。
 
Q1. なぜシニアの食事が重要なのでしょうか?
A1. シニアに限らず、私にとってはすべての人がお客様です。レストランだけでなく、学校であろうが、老人ホームであろうが、みんな誰もが手作りのおいしい食事をしたいのは変わりありません。
 
シニアの食事に選ばれたステファン氏の作ったメニューは、『リブのポーター煮 こんがりタマネギとディル、蒸した根菜のクリーム添え』。
 
審査員の評価は、「見た目も美しく、非常においしい。伝統的な食材を使った懐かしい味なのに、モダンで食べる人の食欲をそそる盛りつけによって、さらに食事楽しくおいしいものにするテクニックを熟知しているメニューだといえる。」 
 
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受賞メニュー『リブのポーター煮 こんがりタマネギとディル、蒸した根菜のクリーム添え』
 
大会は、『ストックホルムを味わおう!』というスローガンを掲げて、ストックホルムのクングストレードゴーデン (Kungstradgarden) で開催された。この大会が開催された背景には、今日のスウェーデンの高齢者が、必ずしも十分な栄養のある食事をしていないという現状を改善しようという働きかけがあった。
 
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過去のすべての受賞メニューのレシピが掲載されているホームページ www.smakapastockholm.se
 
この『シニアの食事マスター・オブ・シェフ』の存在によって、老人ホームやケアセンターのキッチンで働く多くのシェフが、何か新たなインスピレーションを感じ、シニアの食事を見直すきっかけとなればという願いが込められている。この大会で作られたすべてのメニューは、施設等の大量生産向けに考えられており、暖めなおしてもおいしさが損なわれないよう工夫されている。
 

まとめ

高齢者の食生活を見直すために、迅速な対応をとったスウェーデン。フードパトロール隊のように厳しいチェックを行い、結果をすべて名指しで一般公開するやり方は、大きな効果を生み出すことができる。
 
それと同時に、『シニアの食事マスター・オブ・シェフ』のコンペティションのような、高齢者の人たち自身が参加して楽しむことができる、イベント式の食事見直し計画の相乗効果もまた重要なのではないだろうか。
 
高齢者には、適切な栄養素補給だけでなく、同時に食生活を通して多くの人とコミュニケーションをとり、健やかな日常生活を送るという心理状態の充実も重要だ。そのためには、周りの人たちの工夫を凝らした支援が不可欠といえる。

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