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ヨーロッパ高齢者事情研究のため、2007年2月ストックホルムシニアライフ研究所を開設しました。
現地から最新の高齢者事情をレポートします。

政権交代による自宅訪問サービスの変化

松下泰志(Taishi Matsushita: 2012/1-), セスレ真美(Mami Sessle: 2011/11-2011/12),
ローベリ亜佐子(Asako Raberg: 2011/1-2011/10), ダールマン容子(Yoko Dahlman: 2007/2-2010/12)   

選択の自由

2008年スウェーデンで新しい法律が制定された。LOV(Lag om Valfrihetssystem)と呼ばれる法律で、日本語だと「自由選択システムに関する法」となるだろうか。この法律は主に高齢者ならびに身体障害者を対象とする福祉と、(一般人を含む)健康福祉を対象としたものである。

スウェーデンは福祉国家として知られている。長年にわたる社会民主労働党 (Sveriges socialdemokratiska arbetareparti) 政権の元で構築された社会保障制度が、税金制度や高齢者福祉などで各国の注目を集めていることは確かである。ホームヘルプサービスを利用する高齢者も、毎年行われる調査結果を見る限り満足度の高いサービスを得ているようだ。

しかし、一見福祉パラダイスに見えるスウェーデンだが、政党が変わった今でも長く続いた社会民主労働党の名残があり、行政の管理下にあり、個人での選択の余地がないものが多くある。ホームヘルプサービスも例外ではない。

身体障害者や高齢者で日常生活において手助けを必要とする場合には、個人が住んでいるコミュン(日本の市に相当する)に申請することによって、料金の一部を個人で支払う事により福祉サービスを受けることができる仕組みになっている。個人が支払う料金以外は税金でまかなわれている。現在スウェーデンには290のコミュンがあり、福祉・教育などは全て基礎自治体である各コミュンが管理している。

では、実際にLOVが制定されたことで何を「自由選択」できるようになったのか。 

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 LOVの制定前と制定後、上図の申請の流れに変化はない。申請が受諾された後のサービスは、コミュン独自の運営と、コミュンが事前に認定した民間企業の両方でヘルプサービスが行われている。

しかし、LOVの制定前は申請の段階でコミュンか民間企業かを選ぶことはできず、コミュンの判断で振り分けられていた。現在はコミュンの運営か、もしくは認定会社の中から1社選び申請をすることが可能になった。非常に小さな違いのように思うが、それが数年経った今、徐々に大きな変化を表している。

Hemtjanst(ホームヘルプサービス)の民営化

多くのコミュンが自由選択制を取り入れるなかで、民間企業のサービスの割合を徐々に増やし、更にホームヘルプサービスを完全民営化するコミュンも現れはじめた。

◇反対派の意見

2011年10月、ストックホルムの北部に位置するテービー・コミュンは、全てのホームヘルプサービスを民間企業に委ねることを決定した。地方紙では悲しげな表情を浮かべる高齢者の写真が一面に掲げられた。また、現在テービー・コミュンのホームヘルパー240人のうち80人は完全に職を失うことになると指摘し、コミュンの決定に対してネガティブな姿勢を示した。   

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 テービー市に住むイングマルさん(上写真)は現在90歳。健康状態は良好で、スペイン語を勉強し、近所の人との交流もある。一人暮らしの今も家事のほとんどを自分でこなしているが掃除と食材の買い出しをコミュンの運営するホームヘルパーにお願いしている。彼は取材に対し「今、全てうまく機能しているのに残念だ。もし選べるのなら、もちろんコミュンのサービスを選ぶ。私は金儲けに興味のない方に付きたい」と語った。

また、その他、ネガティブな意見を示した高齢者達の間から出る意見としては「(民間企業は)利益を得る事しか興味がない」ので今後が不安だというものだ。

◇賛成派の意見

同じくテービーに住むマッツさんは、自己のブログの中で、コミュンで働くスタッフの失業の可能性や、既にコミュンのサービスを選択した高齢者に「選択の自由」が無いというマイナス点をあげた上で、選択民営化に賛成の姿勢を見せている。 

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 「民営化になった最大の原因は、長年にわたるコミュンの資金の運用の甘さに一番の問題がある。例えばコミュンのヘルパー達は自分たちの希望する労働時間を自由に選ぶことができる。即ち、時間帯によって必要数以上のヘルパー数を確保している。その上1週間の労働時間が民間企業に比べると短く、給料は民間企業を上回る。」

「その結果、コミュンで働くホームヘルパーは同じ仕事をする民間企業の社員に比べ、かなりいい条件で働いていることになる。コミュンのホームヘルパーとして働く准看護士(23000Kr※1kr=12円)と世話係としてのヘルパー(22100Kr)の給料は、民間企業の給料に比べ高いだけでなく、他のストックホルム県内のコミュンと比べても高い。民間企業29社とコミュンを合わせた30の選択肢のうち、同じサービスを提供しているにもかかわらず、コミュンの運営にだけ多額の税金をつぎ込むのは理にかなっていない。」

このように、役所の税金の使い方のルーズさを指摘する意見も多く出てきている。 

この数年間、サービスの質に関する調査も行われ、結果としてはコミュンと民間企業のサービスの質には基本的には殆ど違いがないという。時折起きるトラブルに関しても双方同等であり、どちら良いか悪いか判断をつけるのは難しい。また、利用者側から支払う料金もコミュンを選ぼうが民間企業を選ぼうが全く変わりはない。

つまりサービスを利用する高齢者からすると、LOV制定前も現在も条件は全く変わらない。LOV制定後は、もしサービスについて不満がある場合には、サービスを提供する会社を変更する事もできる。 また、サービス利用者の満足度を細かに調査する事もコミュンの重要な役割として義務づけられており、そこで高い評価を得るために、各社が凌ぎを削っている。 

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まとめ

2008年のLOV(自由選択システム)制定以来、利用者に選択の自由を与えるという当初の目的から、次々とコミュンのホームヘルプ事業が民間に移り、今後も更に民営化が進む事が予想される。ホームヘルプサービスの完全民営化の目的は、税金の使い方の改善を図るためである。質の良いサービスを保持しつつ、民間企業に運営を委ね、税金の無駄遣いを減らすことは納税者からしてみると当然の得策だと思われる。

2006年の政権交代以来、様々な社会制度、国営企業が民営化の方向に進んでいる。

一方で、冒頭で述べた通り、過去に続いてきた社会民主労働党の影響が強く残っている。実際、ホームヘルプサービスを利用する世代は、行政がすべてを決定することに慣れており、選択の自由が、逆に精神的負担になっている。「変化」を嫌う年齢であるのも1つの原因だろう。

しかし、それでもやはり改善できるところは改善されるべきである。ホームヘルプサービスの民営化は今のところ、「高齢者の心理的」不安以外、全ての問題をクリアしているように思う。ホームヘルプ事業を請け負った民間企業には、高齢者達の不安を取り除くべく、高品質なサービス提供と更なる効率的な資金運用を期待したいところである。

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