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ヨーロッパ高齢者事情研究のため、2007年2月ストックホルムシニアライフ研究所を開設しました。
現地から最新の高齢者事情をレポートします。

老人介護に関する現状と政治的アプローチ

松下泰志(Taishi Matsushita: 2012/1-), セスレ真美(Mami Sessle: 2011/11-2011/12),
ローベリ亜佐子(Asako Raberg: 2011/1-2011/10), ダールマン容子(Yoko Dahlman: 2007/2-2010/12)   

 皆様ご存知のようにスウェーデンでは老人介護に関する関心が高く、議論も盛んに行われています。政治家、老人介護に携わる会社の人、介護現場の人など様々な人が問題提起をしたり議論をしたりしています。今回のレポートでは政治的な立場での老人介護に関する活動を取り上げてみたいと思います。

介護現場での雇用問題

社会福祉が充実した国スウェーデンにおいても、例えば老人介護の分野で改革を行う必要がでてきています。特に介護現場における雇用問題は深刻になりつつあります。
 
ストックホルムの約70km北にあるウプサラ市の老人福祉担当行政委員のエッバ・ブッシュ氏(キリスト教民主党)は、介護現場では特に人事面で問題があり、教育を受けたスタッフを雇用することが非常に難しいため、人事問題に関しては包括的なアプローチを取る必要があると言っています。十分に教育を受けたスタッフを雇用したいという現場からの要求も増えてきているため、この秋に準備が整うようブッシュ氏が中心となり戦略を立てています。
 
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エッバ・ブッシュ氏(ウプサラ市ホームページより)
 
ウプサラ市の80歳以上の人口は2015年から2030年の間に倍増すると推定されています。現在でも65歳以上の人は3万人を超えており、老人介護施設に住んでいる人の数も1500人以上います。
 
それにもかかわらず、そういった老人介護施設などの現場で働くことを希望する人の数は減少しています。実際のところ、高校の看護学科や高校卒業後大学で看護学を引き続き学ぶ学生の数はこの10年間で激減しています。
 
そのため、老人介護施設などからは教育を受けたスタッフの雇用が難しいとの意見がブッシュ氏がとりまとめている老人福祉協議会に寄せられています。介護現場は重労働・低賃金です。そのため、特に若い人をそういった職場に惹きつけることが難しくなっています。
 
ブッシュ氏は、サービスの質を向上させるために、将来的にはすべての老人福祉施設に高度な教育を受けたスタッフを配置しなければ認可しないようにしようと考えています。また、スタッフを教育・訓練することも義務づけたいと言っています。ただ、現在の状況では、スタッフ不足で、それも難しいと言わざるを得ません。少なくとも向こう数年間はそういう状態が続くだろうというのがブッシュ氏の見通しです。
 

リーダーの育成

前述の事例からもわかるように、人材の育成が喫緊の課題と言えます。イエーテボリ市行政委員のヘレーネ・オーデンユング氏(自由党)は私立・公立両方の老人介護施設のクオリティーを高めるために国が投資するべきだと考えています。特に、老人介護現場のリーダー養成学校を国レベルで立ち上げるべきだと考えています。
 
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ヘレーネ・オーデンユング氏(自由党ホームページより)
 
リーダーとなる人はどのような能力を備えている必要があるのか?これは質の高い老人介護を実現する上で鍵となる質問であると思いますが、このことについての議論が十分なされていないとオーデンユング氏は考えています。
 
私立・公立両方の老人介護施設で不祥事が起こっています。そのため、能力を備えた強いリーダーシップを発揮する人が求められています。政府と自治体が共同でそのような人材を育成する必要があるというのがオーデンユング氏の思いです。学校教育の分野ではすでに国レベルで校長・教頭などの人材育成プログラムが立ち上がっており、同じようなことを介護の分野でも行いたいと考えています。
 
2010年の国家厚生福祉委員会の調査では、8割の人が介護現場の職員を監督・指導するために、リーダーにはより多くの知識が必要と感じているという結果が出ています。また、9割の人が様々なプログラム・活動を「継続する能力」が必要だと感じており、7割の人がリーダーが得た新しい知識を職員に伝える能力をリーダーに求めています。一方マニュアル通りに仕事をするリーダーが必要だと感じた人はわずか3%でした。
 
国家厚生福祉委員会では週一回のトレーニングコースを3年間開催し、教育に関わる費用は国が、テキスト代・トレーニングに参加するための旅費などは地方自治体が負担するなどの案が出ています。オーデンユング氏は現在、これらの活動のための予算案提出に向け、政府に積極的に働きかけています。
 

食事の配送サービス

スウェーデンでも、頻繁に買い物に行くことが困難な人などのために食事を自宅まで配送するサービスがあります。スウェーデン南部にあるランドスクローナ市では自治体によって委託された会社が調理し、配送しますが、真空パックのものや冷凍食品であるため利用者から不満が出ています。
 
そのため、ランドスクローナ市の政治家および実務者レベルで食事の配送サービス改善のための作業部会を3月に立ち上げ、将来どのようなサービスを提供すべきか検討しています。複数の会社にコンタクトを取り、試食などを繰り返し行い、サービスの質などをチェックしています。
 
今のところ、適切な代替案が見つからず、2013年の4月までは引き続きこれまでどおりのサービスを提供することになっていますが、作業部会では引き続き、どのようなサービスが可能か検討を続けています。例えば人を家に派遣し、調理してもらう方法なども検討されています。
 

まとめ

今回のレポートでは、今現在議論が進んでいる話題を取り上げてみました。スウェーデンはすでに高いクオリティーの福祉サービスを提供する国として知られていますが、より良いサービスを提供するにはどのようにしたらいいか常に議論が行われています。今後もこれらの議論の行方を見守って行きたいと思います。
 
*本記事は特定の個人・組織・政党の活動を支持あるいは非難することを意図したものではありません。

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