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ヨーロッパ高齢者事情研究のため、2007年2月ストックホルムシニアライフ研究所を開設しました。
現地から最新の高齢者事情をレポートします。

地域交通改善<高齢者にやさしい街づくりプロジェクト>

松下泰志(Taishi Matsushita: 2012/1-), セスレ真美(Mami Sessle: 2011/11-2011/12),
ローベリ亜佐子(Asako Raberg: 2011/1-2011/10), ダールマン容子(Yoko Dahlman: 2007/2-2010/12)   

今回のレポートでは高齢者が、主に道路状況の観点から、安心して歩ける街にするためのプロジェクトをご紹介したいと思います。

プロジェクトの概要

高齢者が安心して外に出られるような街づくりを実現するために、ルンド大学の高齢化支援環境センターが中心となってプロジェクトを進めています。現在進行中のプロジェクトは主に高齢の歩行者が安心して外を歩けるようにすることに焦点を合わせています。この調査・研究に関して2006年から10年間の研究資金が割り当てられ、現在、半分の5年が経過した段階です。
 
センターでは大学の医学部・工学部・社会学部が共同で、高齢者のために、生活の改善・街の環境改善・健康促進などについて研究を行なっています。センター長はイヴァールソン医学部教授で副センター長は交通工学が専門のストール教授です。ストール教授は特に高齢者・身体障害者の交通が専門です。
 
プロジェクト開始に先立ち、高齢者にアンケートで「歩いて外出する際に抵抗を感じるものは?」という質問をし、次のグラフのような結果が得られました。この結果からもわかるように、様々な理由で外を歩くことに抵抗を感じていることがわかります。このプロジェクトは道路状況の改善を中心に高齢者に安心して外を歩けることを示し、外出を促すことを目的としています。
  
出典:ルンド大学報告書

事故の原因調査

プロジェクトでは、まず高齢者の事故の原因を調査することから始めました。ストール教授曰く、「『高齢者の交通事故』と聞くと、『視力もなく、耳も聞こえないのに運転するから』と思いがちですが、80歳以上の被害者の多くは歩行者です」
 
高齢者は交通マナーの悪い人から被害を受けており、年齢が上がるとともに被害数も増えています。歩行中の事故と自転車の事故が突出しているのが下のグラフから分かると思います。また、もう一つのグラフから分かるように、そのほとんどは自分自身で転倒したことによる単独事故です。転倒の主な原因は、凸凹の歩道、少し上に出ているマンホールの蓋、歩道と車道の間の段差などでした。このことから、こういった障害を取り除くことが急務であることが明らかになりました。
 
120927Fig2.jpg
高齢者の事故 左:事故時の乗り物 右:事故の種類
データ出典:スコーネ交通局
 
 高齢の歩行者は車や自転車にはねられてけがをすることがよくあります。しかもこれらは高齢者自身の問題ではなく交通の環境に起因する場合が多々あります。先程も述べましたように、凸凹の歩道、歩道の仕上げの悪さ、適切でない材料で作られている道、積雪などはスムーズに歩くことができなくなった人にとっては大きな問題です。
 

道路の改善

このプロジェクトを通して、実際に道路状況の改善が行われました。下に2つほどその例を写真でご紹介します。最初の例は段差の解消。2つ目は歩道の新設です。
 
120927Fig3.jpg
段差の解消例 左:改善前 右:改善後
写真撮影:L. グランス、M. アルミエン
  
120927Fig4.jpg
歩道の新設 左:工事前 右:工事後
写真撮影:L. グランス
  

追跡調査

同センターで研究をしているハルグリムスドッティル氏はクリスチャンスタッド地区で行った道路・交通状況の改善に関して追跡調査を行っています。最初の調査はプロジェクトに先立ち、2002年に行われたお年寄りが外出する際したどのようなことに抵抗を感じるかという調査でした(前出のグラフ)。その結果を元に、上の写真で示したような改善や制限速度の変更、通りの見通しの改善、歩行者用と自転車用のレーンの設置、ベンチの設置などが行われました。
 
2006年に行った追跡調査では、大変良い結果が得られました。回答者は改善に満足しており、以前に比べて外出が億劫ではなくなったという人の数が増えました。
 
2011年に2002年、2006年に引き続き3回目の調査が行われました。交通の改善効果に否定的な回答をした人の絶対数は増えましたが、全体の割合としては2006年の調査よりも良くなっていました。
 
調査したハルグリムスドッティル氏は、「2002年の最初の調査から9年が経っており、当時の調査対象者の平均年齢は現在81歳になっています。体力もなくなり始め、動きにくくなり、歩行の際のバランスも悪くなっています。それにもかかわらず交通環境が2002年に比べて改善していると感じていると回答していることは非常に意味の有ることだと思います」と、調査結果を分析しています。
 

大学による交通改善のプロジェクトについての住民の反応

住民の皆さんと一体となって行っているプロジェクトは好評のようです。住民の反応を幾つかピックアップしてみました。
 
「プロジェクトの調査を通して、住民がどういうふうに思っているのか、こういうふうに発言する機会をもらえるのはいいね。一口に年寄りといっても、いろんな人がいて、いろんな要求があると思うんだよね。個人的にはベンチをもっと増やしてほしいかな。住民も改善するためにもっと発言していかないといけないよね。後から文句だけ言ってもダメだよ」
 
「良いプロジェクトだと思うよ。みんな良い人だし。政治家もこんな風に住民の意見を聞いてくれるといいね。そうしたら彼らもどうやって街を統治したらいいかを学んでいけるんじゃないかな」
 
「対策を講じることはあらゆる面から考えて緊急の課題といえると思います。事故あるいは精神的、肉体的苦痛を予防するためにも。このプロジェクトはそういった苦痛を和らげるものであり、続けるべきだと思います」
 

まとめ

今回のレポートでは、高齢者のための道路状況改善のプロジェクトをご紹介しました。
 
「バリアフリーの実現を求めた法律はありますが、社会そして個人が高齢者が外でできるだけ動きやすいような環境を作ることが重要です」と前出のストール教授は言っています。
また、ハルグリムスドッティル氏は、「ちょっと改善するだけで、歩く際にバランスを取ったりすることが難しくなったお年寄りにとって外出がしやすくなります」と言っています。
 
プロジェクトに参加している皆さんは大事業を行わずとも、高齢者の視点に立った、住民主導の改善によって街を良くしていくことができると考えているように思います。

 

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