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ヨーロッパ高齢者事情研究のため、2007年2月ストックホルムシニアライフ研究所を開設しました。
現地から最新の高齢者事情をレポートします。

シニアのためのイノベーション

松下泰志(Taishi Matsushita: 2012/1-), セスレ真美(Mami Sessle: 2011/11-2011/12),
ローベリ亜佐子(Asako Raberg: 2011/1-2011/10), ダールマン容子(Yoko Dahlman: 2007/2-2010/12)   

 これまでのレポートでスウェーデンでの制度、新しい製品などについてお伝えしてきましたが、これらはいろいろなディスカッションやプロジェクトの「結果」といえるものです。今回のレポートでは、こういった新しい制度、製品がどのようにして生まれるか、すなわち、イノベーションを起こす取り組みについてご紹介したいと思います。

 

スウェーデン政府

イノベーションを起こすためには政府の役目が重要であることは間違いないでしょう。スウェーデン政府は2011年から2012年にかけて試験的に高齢者の健康、医療、福祉に関するイノベーションのための予算を組みました。新しい技術、新しいサービス、組織、新しい仕組み作りのために、現場と関連する会社が協力してイノベーションを起こすことを想定したものです。2年間で約3億円の予算が組まれました。そして研究資金を分配する政府の機関を通じて、研究者など関係者に分配されました。
 
当時の産業大臣、マウド・オロフソン氏は、
 
「効果的で効率的な医療インフラを整え、質の高いヘルスケアを市民に提供することは福祉の観点からして非常に重要なことです。退職者、高齢者が増えているため、福祉サービスに関する新たな問題解決策を求める声が高まっています。そのため、イノベーションに関するテストをしてみようと判断した次第です」
 
と言っています。
 
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前産業大臣、マウド・オロフソン氏
 

アイディアコンペ

 
政府が土壌作りを行った後は、イノベーションを起こすための種をまく必要があります。その一例として、アイディアコンペがあります。高齢者の日常生活をより快適なものにするためのアイディアを競うコンペが先月(2013年11月)始まりました。コンペの主催者は「たくさんのアイディアが出てくることを期待しています。そしてこれまでとは違った、より良い、効率的な解決策を提供できるようになればと思っています」と言っています。
 
このコンペではまずはじめに参加者がアイディアを主催者側に提出し、主催者側が書類審査を行います。書類審査を通過した人には、主催者が2-3人のスタッフをつけてくれ、そのアイディアをより具体的で現実的なものにする手助けをしてくれます。そしてその中から5つのアイディアが最終的にアイディアが実現するまでサポートしてもらえることになっています。さらに優勝者には約75万円の賞金が出るというものです。このコンペも研究資金を分配する政府の機関を通じて分配された資金を基に行っているものです。現在約60件の応募があり、主催者はさらに倍の応募があるものと期待しているようです。
 
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主催者のモナ・ヨンソン氏
 
 

活力のある高齢化に関する国際プロジェクト

 
ヨーロッパではどの分野においてもEUが出資し、ヨーロッパ各国が共同でひとつのプロジェクトを遂行することは珍しくありません。EUの欧州委員会(EC)からのプロジェクト資金を基にしたプロジェクトに「活力のある高齢化のためのデザインイノベーションプロジェクト」というものがあります。2012年に始まったプロジェクトで、2014年6月まで続く予定です。スウェーデンをはじめベルギー、フィンランド、ブルガリア、ドイツ、ポーランド、スペインのEU加盟諸国およびノルウェイの関係機関が参加しているプロジェクトです。
 
プロジェクトでは、シニアのケアとは何かを考え直し、再定義し、シニアが肉体的にも、社会活動の面でもアクティブであるための実現可能で持続可能な方法を見つけることを目標にしています。1) 成功事例に学び、応用可能かを評価することで効率を良くする、2) システマティックな解決策を探し、先入観にとらわれず異なる分野の人にも協力してもらう、3)政策立案のためのガイドラインを策定する、などの目標も掲げています。
 
各国がそれぞれ担当するタスクを実行し、他国と情報・結果を共有することになっています。ストックホルムからの参加機関はNPO団体と高齢者のつながりを強めるにはどのようにすれば良いかを調査する予定です。高齢者とのつながりが強くなれば、高齢者の生活の質、健康が向上すると考えられているためです。また、市が政策設計を通してどのように非公共機関、NPO団体を活性化して活動を促進することができるか、市としてどのようにしてシステム面でよりすばやく、シニアのための新しいサービスを実行することができるようになるかを調査する予定です。このほかに具体的な目標としては、防災活動の一環として高齢者住宅で携帯式のスプリンクラー(消化装置)を導入することを目指しています。携帯式スプリンクラーは比較的新しい装置ですが、導入が容易なものとなっており、スウェーデン国内のいくつかの自治体では試験的に導入されています。ストックホルム市の計画書にもすでに掲載されている事項ですが、ストックホルム市内ではまだ実際には導入されていません。
 
このプロジェクトでは情報共有のため、各国持ち回りでワークショップが開かれており、今年(2013年)4月にはストックホルムでもワークショップが開かれました。ワークショップでは毎回各国の現状、プロジェクトの進捗などが報告され、ディスカッションが行われます。スペインでは認知症に関する調査が行われ、ポーランドではアクティブなシニアのためのアクティビティセンターの建設、ドイツではITやロボットの開発などが行われています。その他の国もそれぞれのタスクを実行、報告しています。
 
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ストックホルムで開かれたワークショップの一コマ
 
 

まとめ

 
今回はどのようにして他国の模範となるようなシステム、サービス、製品が出来上がるかを知っていただくために、イノベーションを起こすための土壌作りの例についてご報告いたしました。そのため、具体的な例がなく、抽象的だとの印象をもたれたかもしれません。しかし、プロジェクトが進み、徐々に具体的なものが出てき始めて、将来のイノベーションにつながるものだと思います。イノベーションの結果を見るだけではなく、それが起こる過程をも知ることによって、将来いち早く、適切な形で新しいシステムなりサービスが導入できるのではないかと思います。
 
 

 

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