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ヨーロッパ高齢者事情研究のため、2007年2月ストックホルムシニアライフ研究所を開設しました。
現地から最新の高齢者事情をレポートします。

シニアのためのテクノロジー

松下泰志(Taishi Matsushita: 2012/1-), セスレ真美(Mami Sessle: 2011/11-2011/12),
ローベリ亜佐子(Asako Raberg: 2011/1-2011/10), ダールマン容子(Yoko Dahlman: 2007/2-2010/12)   

これまでにもシニアのためのハイテク補助ツールなどについてお伝えしてきましたが、今、スウェーデンを始めヨーロッパではシニアのためのテクノロジーの市場が成長しています。今回のレポートではシニアのためのテクノロジーの最近の動向、スウェーデン政府のシニアのためのテクノロジーに関する方針についてお伝えしたいと思います。

 

Doro社の戦略

 

以前、2013.04.23付のレポートでもお伝えしましたように、スウェーデンのDoro社はシニア向けに特化した固定電話・携帯電話を販売しています。大きなボタン、通話のみというシンプルな機能などが特徴です。そんなDoro社がスマートフォンについて言及しました。Doro社のジェローム・アルノー社長はインターネットにも接続できる新しいシニア向けスマートフォンを今秋(2014年秋)にも発売するとしています。

 

先日バルセロナで開かれた展示会にブースを出店したDoro社ですが手応えは上々だったようです。会社の利益もこの5年間で25%上昇したとのことです。また、2007年以来、520万台の電話機を販売しています。日本を始めとするアジア諸国などより人口が少なく、市場規模が小さいスウェーデン・ヨーロッパにおいては、この数はかなり多いと言ってよいと思います。

 

このように成長してきたDoro社ですが、更に成長するためのはっきりした2014年度のゴールがない状態でした。Doro社のこれまでの戦略はシニア向けに特化した機器の開発でした。そして、今後もそれがメインであることに代わりありません。Doro社の顧客調査では次に携帯電話を買い換えるときに、スマートフォンを買うと答えた人は約50%だったそうです。まだ残りの50%の人がシンプルな電話を使いたいと考えており、そこにまだビジネスチャンスがあると考えているようです。とはいっても、インターネットに接続できるスマートフォンの市場の成長は著しく、また、今後さらに成長するためにも、先に述べたようにスマートフォン市場に本格参入するとの決断に至ったようです。1年ほど市場調査などを行ってきた結果の判断です。

 

  Fig1 (4).jpg

Doro Liberto® 810

現在発売中のDoro社のスマートフォン

こちらの動画でインターフェースを見ることができます。

http://www.youtube.com/watch?v=VgXdoopAnz8

 

 

Doro社は展示会で4つの新機種を発表しました。いずれもターゲットをかなり絞ったものです。例えば、SIMカードを2つ内蔵し、セキュリティーアラーム用に回線を一つ、会話用に回線を一つ確保しているものなどがあります。展示会では入力が簡単なキーボードを備えたパソコンなども発表されました。将来的にはテレビ市場にも参入する考えもあるようです。製品の幅は広げても、シニア向けに特化したものというニッチなところを狙う戦略は変わらないようです。

 

また、会社の認知度を上げるために、パリに直営店を開店するなど成長戦略を打ち出しています。Doro社のマーケティング担当者はDoro社が製薬の分野にまで手を広げることはないとしても医療関係者と協力し、使うのが簡単な機器を提供していきたいとも言っています。

 
 

シニアになったベビーブーム世代

 
スウェーデンの工業新聞「NyTeknik(新技術)」もシニア向けのテクノロジーの市場が急拡大していると言っています。NyTeknik紙によれば、アメリカのベビーブーム世代(1946?1964年生まれ)が今、50歳を過ぎ、シニア世代となっているそうです。また、アメリカでは50歳以上の人口がほぼ1億人に達し、その数は2030年まで毎年、200万人増えると推定されています。スウェーデンも下のグラフのように1920年代、40年代、60年代、90年代、そして2010年頃と何度かベビーブームが訪れており、60年代生まれの人はシニア世代になってきています。日本も1970年代に第二次ベビーブームがありますので、十数年後には今のアメリカやスウェーデンと同じような状況になることは十分考えられます。
 
 Fig2 (4).jpg
スウェーデンにおける出生数の変化 出典:スウェーデン統計局
 
 
このようにベビーブーム世代がシニアになっていることからビジネスチャンスがあると睨んでいる若いIT技術者、研究者、起業家がこれまでにないほどシニア向けのテクノロジーに注目しています。現在50?60歳ぐらいの人はこれまで新しい技術が次々と開発される中で生きてきて、それらの技術を吸収・利用してきた世代なので、新しい技術を受け入れることにあまり抵抗がないようです。アメリカの50歳以上の多くの人が、インターネット上のソーシャルネットワークサービスを利用しており、パソコンやスマートフォンのヘビーユーザーだそうです。
 
そしてもう一つ注目されている点は、現在シニアになったベビーブーム世代の多くの人がまだ世話をしなければならない高齢の両親を持っているということです。介護をする人々の普段の生活での負担を軽減するために技術を有効利用することが重要視されています。
 
しかし、技術そのものは開発されているものの、その技術が他の分野で利用されており、まだシニア・高齢者のためには十分に利用されていません。専門家は利用可能な有望な技術をいくつかあげています。それらの技術を利用すれば、スマートフォンで健康診断(自己診断)ができたり、介護ロボットを開発したり、食べ物の成分を分析してアレルギーがあるものが含まれていないかをチェックする装置、薬を忘れずに飲むためのアラーム、といったものを開発することができると言っています。また実際、一部は開発中です。今後このような製品開発がより活発になると思われます。
 
 
 

シニア・高齢者向け技術に関するスウェーデン政府の方針

 
これまでのレポートでも何度か名前が出てきた、児童・高齢者担当大臣のマリア・ラーション氏は、
 
「大臣として最も重要な事は高齢者が安全な毎日を送ることができるような環境を生み出すことです。物忘れが激しくなったり、転倒したり、電話やテレビその他の電子機器を使用するのが困難であったりします。しかし、自宅などでの生活を快適なものにするための新しい技術があります。ですので、政府としてはニーズにあわせた新技術の開発に投資したいと考えています」
 
と言っています。
 
 
 Fig3 (4).jpg
「高齢者のための技術」に関する会合に出席したマリア・ラーション氏
 
 
前のセクションでも書きましたが、これまでの新技術の開発は高齢者のニーズにあわせたものというわけではありませんでした。スウェーデン政府も同様の認識で、新しく、安全で、良い技術を高齢者のニーズに合わせて、実際に利用可能な形になるよう開発すべきだと考えています。
 
政府やヘルプツール研究所が中心となり、2007?2012年の間160近くのヘルプツールに関するプロジェクトが実施されました。一年あたり3億円近くの予算が割り当てられました。具体的には人間工学に基づいたベッド、簡易リフト、アラーム機能付き携帯電話、薬の飲み忘れをを防止するツールなどが開発され、今(2014年)ちょうどこのブースト期間を終え、今後の方向性が定まったところです。
 
開発分野としては、家庭で使うもの、住居関連などで、高齢者が使いやすいもの、高齢者を直接サポートするツールの開発に加え、家族など介護をする人の負担が少なくなる技術・ツールの開発も行われているところも注目すべき点だと思います。
 
児童・高齢者担当大臣のマリア・ラーション氏は、
 
「個人的にはこのような技術はスウェーデンのビジネス界、輸出事業にプラスの影響を与えると思います。スウェーデンはこの分野で最先端を行っていますので、政府としてもさらにこれを推し進め高齢者のための技術の分野で世界のリーダー的存在になることを後押ししたいと考えています」
 
と言っています。
 
このような流れはビジネスにとってもプラスですが、より多くのヘルプツールを利用できるようになる利用者にとってもプラスになることと思います。
 

まとめ

今回のレポートではシニア世代向けテクノロジーの動向についてお伝えしました。
まとめてみますと、
 
・シニア向けテクノロジー市場が大きくなっているのはベビーブームが少なからず関係している。
・シニア・高齢者向けヘルプツールとしては高齢者が直接使うツールと高齢者をサポートする人が使うツールの2つに分けられる。
・前者は、電子機器などを使いこなせるシニアが自分の両親などを介護する際に使えるツール、後者は通常の電子機器を使うことが難しい高齢者向けにシンプルな機器、生活の補助をするツールである。
・既存の技術をもっとシニア・高齢者のヘルプツールに利用する必要がある。
・スウェーデン政府は高齢者のための技術の分野で世界のトップになることを目指している。
 
ということになるかと思います。
 

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