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ヨーロッパ高齢者事情研究のため、2007年2月ストックホルムシニアライフ研究所を開設しました。
現地から最新の高齢者事情をレポートします。

訪問介護サービスの改善

松下泰志(Taishi Matsushita: 2012/1-), セスレ真美(Mami Sessle: 2011/11-2011/12),
ローベリ亜佐子(Asako Raberg: 2011/1-2011/10), ダールマン容子(Yoko Dahlman: 2007/2-2010/12)   

以前、訪問介護サービスに関する自治体の取り組みについてレポートいたしましたが(2012.07.25付レポート)、最近また新たな試みを行っている自治体がいくつかでてきましたのでご紹介いたしたいと思います。

 

スンツバル市

 

スウェーデン中部の都市スンツバル市で最近、訪問介護サービスの改善が行われました。これまでは現場を知らないマネージャーによって「時間とお金」だけを考慮して派遣する人を決めていたため、一人のスタッフが何十人もの人をお世話をすることになったり、また逆に一人の人が毎回違うスタッフから介護を受けるということが起こっていました。これでは職場で働くスタッフもサービスを受ける高齢者も満足しないのは目に見えています。これを改善するために現場のスタッフの裁量権をふやし、スケジュールなどを柔軟に決められるようにした結果、一人のスタッフが高齢者一人一人をしっかり介護できるようになり、介護をするスタッフと介護を受ける高齢者の間にしっかりとしたコミュニケーションが生まれ、スタッフ・顧客双方の満足度があがったようです。この改善はバンガード法というイギリス発祥の思考方法を採用することによって生まれたものです。非常に噛み砕いて言えば、トヨタ生産方式、あるいはカイゼン(改善)のサービス業版で1.現状をチェックして、2.計画を立て、3.実行する、というものです。

 

一通り改善が終わった今も、顧客の意見を聞き、更なるサービス・職場環境の改善に努めているそうです。この改善はスウェーデン国内の他の自治体の関心も引いており、これまでに30ほどの自治体から問い合わせがあったそうです。2014年に市内10の地区から始めて、徐々にエリアを拡大し、2015年中には市内すべての地区で新しいサービスを展開するとのことです。これにより市民の税金の負担も増えますが、それだけの価値があるとプロジェクトリマネージャーのオサ・スヴァーン氏は考えています。また、氏はスンツバル市にとどまらず、全国にこの新しい方式を普及させたいと言っています。

 

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プロジェクト・マネージャーのオーサ・スヴァーン氏

写真出典:スウェーデンラジオ

 

 

ヨーテボリ市

 

スウェーデン第二の都市ヨーテボリでも昨秋から訪問介護現場の改善が行われてきました。俗に意思(戦略)決定フレームワークと呼ばれる方法を用いて、介護する人、される人の選択肢が増えるように工夫しました。現在9000人が訪問介護サービスを利用しており、2900人がヘルパーとして働いているヨーテボリ市の訪問介護サービスをより魅力的なものにしようと市は考えています。市の高齢者担当課のヨールゲン・サムエルソン氏は、訪問介護サービスを利用する人の満足度が高くなるように、サービスをより魅力的なものにすることに加えて、職場をより魅力的なものにすることで、ヘルパーとして働く人の満足度を高めるようにすることも大事だと言っています。これは、スウェーデンでは今のところヘルパーという職業はあまり魅力的な仕事とはとらえられていないため、将来、さらなる人材を確保するためには職場環境を充実させる必要があるという考えから来ています。試算では2020年まで毎年350人の新しいヘルパーを雇用することになるそうですが、若い世代はあまり関心がなく、雇用するのが難しいと考えられています。

 

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ヨーテボリ市・高齢者担当課、ヨールゲン・サムエルソン氏

写真出典:地方自治体連合ヨーテボリ地区HP

 

一連の改善の中で一番大切なことは、高齢者が自分のアクティビティーを自分でコントロールできるようにすることだといっています。一方的に介護をするのではなく、介護を受ける人の自主性を重んじるというこの方針はスウェーデン政府の方針とも一致しています。具体的には介護する人、される人が月に数時間プランを立てる時間を持つということをはじめました。こうすることで自主性が尊重され、自分がやりたいことをある程度決めれるようになったとのことです。

 

また、ヨーテボリ市は訪問介護の充実の他に、高齢者向け住宅の建設にも力を入れています。デイケアを受けられる高齢者向け住宅(施設)の需要は事前の調査によるとヨーテボリ市の場合4000戸だそうです。このうち、1000戸を2018年までに建設する予定にしています。

 

 

カールスハムン市

 

スウェーデン南部の都市、カールスハムン市も介護現場の職場改善を進めてきた自治体のひとつです。この一年間改善を進めてきました。カールスハムン市でヘルパーとして働いているマデリーンさんはそのおかげで仕事内容を選べるようになりました。重たい荷物運びなどの仕事の変わりに、掃除と話し相手、インターネットでの物品購入などをする担当となりました。マデリーンさんは職場環境が改善されたことに非常に満足しています。

 

それまでは一人の人がベッドメイキングをし、入浴を手伝い、オムツを換え、薬をあげてとなんでもしなければなりませんでした。その結果、掃除のための時間がなくなるということもあったそうです。今では、掃除をするヘルパーチーム、直接介護をするヘルパーチームというように分かれており、介護に十分手が行き届くようになったとのことです。それに加え、いつも同じ人が介護に当たることができるようになったとのことです。

 

ヘルパーが自分の仕事内容を選べるようになったことで、「適材適所」が実現され、ヘルパーの私生活も充実したものとなり、生き生きと仕事ができるようになったようです。そしてそれが介護を受ける人にとってプラスになっているのは言うまでもありません。

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まとめ

昨秋(2014年9月)、政権が左派連合に変わった影響かどうかはわかりませんが、福祉の充実に関する話が増えてきたように思います。今回のレポートでは3つの市の取り組みについてご紹介いたしました。読んでいただいてお分かりになったかと思いますが、これらの自治体に共通している新しい取り組みは「職場環境の改善」です。これまでは介護を受ける人に対するサービスの向上という点に重点が置かれていましたが、職場環境の改善を通して、サービス向上につなげるという点が新しいと思います。

 

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