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デンマークの高齢者が求める「生きる ためのマインドセット」 ーデンマークの高齢者福祉の三原則ー

北欧は、高福祉国家として知られ、日本の福祉にも長らく影響を与えてきました。

今でも、毎年多くの福祉関係者が北欧を訪問し、北欧の考え方や実践を学び、時には日本にも取り入れようという試みが見られています。

世界的にも認知されている高品質の福祉はどのようにして生まれてきたのでしょうか。そして、そのような福祉を北欧の高齢者はどのように受け止めているのでしょうか。


デンマーク高齢者福祉の歴史

デンマークの現在の高齢者福祉の一つの契機は、80年代に見られます。中でも、1982年に示された「高齢者三原則」は、今でも高齢者福祉の柱として認識されています。

デンマークでも理想的な高齢者福祉が初めからあったわけではありません。

例えば、1960年には、65歳以上の高齢者が人口に占める割合(以下,高齢者率)が10.6%となり、救貧院や養老院の流れを汲む老人介護施設.特養高齢者施設であるプライエム(Plejehjem)が多数建設されるようになっていました。その後、70年代には施設の大規模化が計られるようになり、施設依存や生活環境の悪化などが社会問題化していったのです。

悪化する介護環境の改善が出来ないだろうかと10年の議論の結果生まれたものの一つが「高齢者福祉の三原則」です。


高齢者福祉の三原則

高齢者福祉の三原則は、3つの核となる考えから構成されています。

①高齢者になって大きく生活を変えるのではなく、それまでの生活をできる限り継続することを理想とし、②高齢者であっても暮らしの中で自己判断をし、③他人に任せきりにならず自身の力をできる限り使い続けることを支援しようというものです。


高齢者三原則

生活の継続性の原則:今までの暮らしを引き続き継続する

自己決定の原則:高齢者自身の自己決定を尊重し,周囲は支える

残存能力の活用の原則:今ある能力に着目して自立を支える


高齢者は、単なる頼り頼られる存在ではない。そして、人間としての人権と尊厳を、そして個人としての自立を支援するための高齢者福祉が重要だ。そんな考えが、福祉の現場、そして社会全体にインストールされていくことになります。


シニアの方達のマインドセットの転換

80年代に打ち立てられた高齢者福祉の三原則は、シニアの方達のマインドセットも次第に変えていったようです。日本から見ると少し可哀想と考えてしまったり、ギョッとするようなことも、広く前向きに受け入れられています。それが私たちが生きる道であると示しているかのようです。


生活の継続性の原則

デンマークでは、介護付きシニアハウスに移る場合でも、自分の好きな家具や身の回りのものを持参することができます。

ベッドなどは介護を考えると難しくても、思い出深いソファーやランプなど、居住者のみなさんが利用されている家具は、長年皆さんを支えてきたものたちなんだろうなということがよくわかります。



自己決定の原則

デンマークには、体に良くないと言われるタバコやお酒を嗜むシニアの方もとてもたくさんいらっしゃいます。80歳はゆうに超えているだろうなと思われる方がかっこよくタバコをふかしている姿は、やはり衝撃ではあります。

ただ、たとえ命が数年縮まったとしても、好きなタバコを楽しみたい、好きなワインを楽しみたいというシニアの方達の意思を周囲が支えているんですね。


残存能力の活用の原則

2024年現在、体を動かすのが困難で着替えるのも一苦労という方であっても、一人暮らしをしている方が多くいらっしゃいます。もちろん、地域の介護士が一日に5回程度家を訪問し、朝の支度の手伝い、三食の手伝い、入浴や掃除の手伝いなどをしています。シニアの方たちも、自分の好きなものや安心する場所で暮らせる方がいいのだそうですし(生活の継続性)、「できることは自分でやらなくちゃ!」なんだそうです。


おわりに

デンマークの高齢者福祉の三原則、そして、そこから変化していった高齢者のマインドセットにも触れてみました。

私は以前、デンマークの高齢者とのワークショップで大きな衝撃を味わっています。

ワークショップの休憩時にコーヒーとケーキを提供しました。部屋の隅のテーブルにコーヒーとケーキが提供されたので、ちょっと離れたところにいたシニアの方に持っていってあげたのです。そうしたら、「自分で取りに行ける!」と怒られてしまいました。日本だったら、おそらく「あらあら、ありがとうね」となるところですよね。

デンマークの高齢者福祉の現状、日本とはだいぶ状況が違う部分もありますが、いかが思われましたか。そして、皆さんは、どんな高齢者生活を送りたいですか。