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電動車椅子と住環境に関する調査研究

今月のレポートでは街や住宅街で見かけることが多い、電動車椅子、高齢者向けスクーターに関する最近の調査結果についてお伝えしたいと思います。  

電動車椅子と屋外活動

スウェーデン・ルンド大学の研究者のスンド氏の調査で、男性高齢者の屋外活動(買い物、公園への散歩など)が電動車椅子、高齢者向け電動スクーター(以下、電動スクーターと略)を使うことによって劇的に増えるという結果が得られたそうです。特に、体調のすぐれない高齢者の場合、電動車椅子、スクーターの導入が屋外活動の促進に与える影響が大きかったそうです。

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   高齢者向け電動スクーター  写真出典:スウェーデン

ラジオ スンド氏は180人の高齢者を調査対象とし、電動車椅子か電動スクーターを高齢者に支給したのち1年間調査を行いました。調査対象者はデンマーク、フィンランド、ノルウェーの出身者で、平均年齢は69歳でした。電動車椅子・電動スクーターの導入によって男性高齢者の場合屋外での活動量が増えたのに対して、女性高齢者の活動量の増加はわずかでした。スンド氏によると、女性は調査のスタート段階で、すでに活動量が男性よりも多かったことが考えられるということです。女性高齢者は体の様々な不調にも関わらず、掃除、洗濯、買い物といった家事を男性よりもしていることもわかりました。 また、もともと自分を健康ではないと思っていた高齢者がこれらのヘルプツールを支給された後、様々な活動をおこなうようになったということです。スンド氏によると、体調が優れないと思っている高齢者にこれらのヘルプツールが非常に役立つということを意味しているということで、これは男女ともに言えるということです。

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テリエ・スンド氏 写真出典:大学HPより

電動車椅子をとりまく環境

同じルンド大学の作業療法士ペッターション氏はまだ住居や社会の環境が、電動車椅子や電動スクーターに対応していないと言っています。ペッターション氏によると、差別禁止(体が不自由な人が不利になることによる差別などを含む)に関する新しい法律ができたことにより、体が不自由な人のための新しい建築基準をどのようにクリアするか、地方自治体や建築業界は厳しい課題に直面しているということです。

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セシリア・ペッターション氏 写真出典:大学HPより

 高齢者の増加とともに、電動車椅子や電動スクーターのような移動のためのヘルプツールが増えています。しかしすべての建物がこれらのヘルプツールの利用に適した構造であるとはいえません。ペッターション氏によると、これまで電動車椅子と電動スクーターはこれまで一つの同じヘルプツールとして研究されてきましたが、利用方法を考えれば、両ヘルプツールは異なった条件が必要になると言っています。

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電動車椅子の一例  写真出典:1177ボードガイデンHP

 ヘルプツールに関する専門知識を持つ作業療法士と住居の設計にかかわる人のコラボレーションが大事で、公共の場所やバス、電車の構造においてもこれらのヘルプツールにあった基準が必要だとペッターション氏は言っています。移動式の床部分は、電動車椅子の重量に耐えられなければならないこと、トイレは、電動車椅子が回転できるような十分なスペースをそなえていること、商業施設では電動スクーターでも移動できるような構造(ものの配置など)にすることなどが例として挙げられます。 ペッターション氏によると、建築物をこれらのヘルプツールにあうように改築する際よく行われるのは、普通の車椅子の利用に適した最低レベルの建築条件に合わせるということです。電動車椅子や電動スクーターの利用者から希望が出ているにも関わらず、政治家や建築家が利用者の要求に応じた改築をすることは難しいといいます。ペッターション氏は、これは電動車椅子のような、より重く、大きな移動ツールに適した住居の改造をしようとすると経費がかかるからだろうと推測しています。 ペッターション氏は、もし2台の電動車椅子があり、一台は屋内用、一台は屋外用とすることが出来れば個人の利便にかなうかもしれないということです。そうすることによって 、住居の改造をあまり必要とせずに、屋内でのヘルプツールの利用性が高まるのではないかと言っています。 しかし、2台所有することはまだ今の段階では難しいかもしれません。スウェーデンでは作業療法士がヘルプツールの「処方箋」を出します。電動車椅子、電動スクーターの場合、作業療法士によって個別に審査が行われます。認められれば無料、あるいは非常に安価な値段でヘルプツールを手に入れることができます。これはヘルスケアに関する法によって規定されています。しかし、規則は利用者の居住する自治体によってことなり、この統一性のないシステムのために、多くの利用者が全額個人負担で(作業療法士の処方箋なしで)車椅子を購入しているのが現状です。

まとめ

スンド氏の調査から結果が示すように電動車椅子やスクーターを有効活用することが大事ですが、ペッターション氏が指摘しているように、住居の改築が往々にして不十分であることが多いようです。これらの研究が示すように、ヘルプツールの導入に加えて、住居や屋外の環境を整えることが、高齢者のよりアクティブで安全な活動を促すと言えるでしょう。