以前のレポート(2015.09.10付レポート、シニアによる難民受け入れ)で難民の人が受け入れに寛容なスウェーデンやドイツを目指していることをお伝えしました。その後、スウェーデンはできる限り沢山の難民を受け入れましたが、それも限界に達して、デンマークとの国境での審査を取り入れるなどして難民のスウェーデンへの入国を抑制し始めました。そのため、2016年6月現在はひとまず落ち着きを取り戻したように思います。現在は多くの難民の人がスウェーデン国内で滞在許可が下りるのを待っています。そして、そのような中でシニアのボランティアの人たちが難民の受け入れに一役買っています。今回は受け入れの様子、今後の課題についてお伝えしたいと思います。
スウェーデン全国に新しい生活を求めてやってきた主にシリアからの難民がいます。スウェーデン中部のダーラナ地方にある人口1000人ほどのシルヤンスネース地区には140人ほどの難民が住んでいます。この地区に住む人たちに支えられながら新しい生活を模索しています。村にあるホテルは、昨秋よりシリア、アフガニスタン、イラクなどからの難民の人たちに開放され、スウェーデン当局から正式な滞在許可が下りるのを待っています。村の人たちに暖かく迎えられたので、多くの難民は滞在許可が下りた後もこの村に留まりたいと考えているようです。特に村の年金生活者の人たちが難民の人たちを助けるためにボランティアとして積極的に参加しているようです。 スウェーデン人のインゲガードさんは地区の学校の教師として働いていましたが、5年ほど前に定年退職しました。ある日インゲガードさんは以前勤めていた学校から電話をもらい、難民の子供たちのためにスウェーデン語教師として働いてもらえないかと頼まれたそうです。言葉の習得は非常に重要なことですし、誰かのために何かができるということはいいことだと思い、インゲガードさんは快諾したそうです。彼女は友達と難民のための編み物教室も始めました。編み物を教えることに加え、編み物教室を通してスウェーデン語を話すということも考えてのことでした。このほかにも毎週スウェーデンの人とコーヒーを飲みながら気軽に話ができるラングエッジカフェ(語学喫茶)を開いています。毎回多くの人が参加しているそうです。 シルヤンスネース地区の人が難民がやってくると最初に聞かされたときは懐疑的で、少し心配になったそうです。しかし、実際に難民の人が来ると、お互い助け合い、人情に触れることができ、心配は杞憂に終わったそうです。また、村の人の古着、家具などを難民の人のために集めて、Facebookで告知するといったこともしています。ネット上に告知することでほしいものが簡単に見つかるようになりました。このような活動のほかにも家族といっしょに料理をしたり、ピクニックに行ったりして交流を深めています。
シリアからの難民とスウェーデンのボランティア 写真:ウルリカ・パルムクランツ
若い世代の移民・難民は今後スウェーデンで高齢者介護に携わることが期待されています。現在、高齢者介護に携わる人の数は減少している一方、80歳以上の高齢者の割合は今後増えるとされており、介護現場での人手不足に拍車がかかると予想されています。そういったこともあり、若い難民の人を8人ほど実習生として受け入れた高齢者施設もあります。早くから介護に携わってもらい、将来そのまま介護の現場に残ってもらうことを考えています。また、働いてもらうことによって、仕事を通してより早くスウェーデン語を習得してもらうという狙いもあります。語学学校にも看護、介護の現場でのスウェーデン語を重点的に学べる学校もあります。
看護専門スウェーデン語学校の学生たち 写真: ヘルシンゲ・ウートビルドニング
このほかに今問題として取り上げられているのが、難民の人たちの精神的な状態です。多くの人が戦火を逃れて来た人たちで、トラウマを持っていると考えられています。難民の中で最も多い年齢層は25歳~55歳です。そのため、25年後には多くの人が高齢者になります。そしてこれらの人たちの10万人近くが戦争経験のために心的外傷後ストレス障害(PTSD)を抱えていると推測されており、将来ケアが必要であると考えられています。そのような人のためのケアの体制はまだ十分整っていません。スウェーデン当局はこの問題を把握しているものの、はっきりとした戦略を打ち出せずにいます。PTSDを抱えた人は認知症になりやすいとも考えられており、また、高齢になるとスウェーデン語を忘れてしまい、母国語しか話せなくなるといった事態も起こりえます。そのようなときのために、言語力がある看護師、介護士の養成も課題になっています。そういった意味で、先に紹介したような母国語に加え、スウェーデン語に堪能な移民・難民の背景を持つ看護師の存在が重要になってくると思われます。
今回のレポートでは、難民の受け入れ状況、今後考えられる課題についてお伝えしました。簡単に解決できる問題ばかりではありませんが、草の根的なボランティア活動でスウェーデン人、難民の人が共にできる限りのことをしているように思います。