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高齢者のためのホットライン

今回のレポートでは、孤独や鬱に悩む高齢者のための電話の相談窓口(ホットライン)についてレポートいたしたいと思います。

■スウェーデンにおける高齢者の鬱・自殺の現状

多くの高齢者が誰とも会話をすることなく、孤独に座っています。スウェーデンでは約15万人(全人口の1~2%に相当)の高齢者が鬱状態にあるとされています。そして、毎年1500人の人が自殺によって命を落としており、このうちの1/4は高齢者です。これは毎日一人の高齢者が自殺していることになります。そのため鬱状態にある高齢者に温かい言葉をかけて元気づけることは非常に重要なことです。最近では孤独な高齢者のためのホットラインサービスがあります。2016年には約2000人の高齢者が高齢者ホットラインを利用しました。利用者数は年々増加しているそうです。こういった高齢者ホットラインは多くのボランティアによってその活動が支えられています。

   

 相談に乗るオペレーター 写真:高齢者向けホットラインのサービスを行っている組織MiNDのホームページより  

■ボランティア

トーシュテンソンさんはボランティアでこの高齢者向けホットラインのサービスを手伝っています。2週間に一度、水曜日に約2時間半、トーシュテンソンさんはスウェーデン全国の高齢者の人たちから電話を受け、話をしています。この程度の頻度と時間であればボランティアでやっていけると言っています。トーシュテンソンは現役で仕事をしていたころは高齢者介護の分野で働いており、定年退職後も経験を生かせる関連分野で仕事をしたいと思っていたそうです。このボランティアを始めた最初のころは電話をかけてきた高齢者の方に何か「解決策」を提示しようと一生懸命だったそうです。そして、できるだけ早く解決策を提示しようとしたそうです。しかし、すぐにそういうことではないと気が付いたそうです。すぐに解決できるような問題であれば、すでに解決されているはずで、簡単な解決策がある相談ばかりではないと気が付いたそうです。   「人生の危機に関しては、一歩引いて、ちゃんと話を聞き、確認する必要があると思いました。時にはただ誰かと話をしたい、自分の思っていることを誰かと共有したいだけということもあります」とトーシュテンソンさんは言っており、状況に合わせて対応しています。   「孤独」は高齢者が抱える大きな問題の一つです。連れ合いを亡くした、外出することが難しい、親戚や友人が遠くに住んでいるなど、様々な状況があります。そしてそういう状況では何も話さず、空虚な時間を過ごすことになります。トーシュテンソンさんは「会話は一種の特効薬で、何か人生に光が差し込んできたような気がして、幸せな気持ちになります」と言っています。  

■3つのケース

トーシュテンソンさんのもとに高齢者からかかってきた電話の例をいくつかご紹介したいと思います。 最初の電話はある高齢者女性からのもので、彼女は定期的に電話をかけてくるそうです。話すことが好きで、病院でもらった新しい薬の話や、今度テラピーを受けるといった話だそうです。トーシュテンソンさんはそんな話を注意深く聞いてあげ、時に温かい言葉を投げかけ、時に簡単な質問をします。この女性は「私は何度も自殺未遂をしたことがあるんだけど、トーシュテンソンさんは知ってました?」と聞いてきます。 トーシュテンソンさんは「一回はあったとは知ってましたが、何度もとは知りませんでした」と優しく落ち着いて答えます。しばらく会話をしていると女性の声が少し明るくなったように感じました。トーシュテンソンさんはだれがいつ電話をしてきてどんな会話をしたかをノートにメモしています。次回電話で話すときにそのメモを役立てています。それに加え、ボランティアに携わっている人は全員、パソコン上でどんな会話をどれくらいの時間をしたか、電話をしてきた人の状態などをメモしてデータベースに保存しています。

    

 写真:高齢者向けホットラインのサービスを行っている組織MiNDのホームページより

   次にご紹介するものは以前にも電話をしてきたことがある、小さな町に住む高齢者女性です。この女性は夜よく眠れないと言ってきています。毎日平凡で、何の進展もなく、どこかへ行っても誰とも話さず、孤独だと言ってきています。トーシュテンソンさんは夜起きているとき何をしているかや今日何が起こったかと質問します。女性は「何も」と答えるだけです。「時々料理をしたりもするけど、歳をとる食欲もそんなにない」と言っています。それから、その女性は「ある有名な政治家が「高齢者の孤独はスウェーデンで最も憂慮すべきことの一つだと」インタビューで答えていたのを聞いて、大きくうなずいたと」といったような話にもなりました。そのような話をしているうちに女性はトーシュテンソンさんの質問にも答えてくれるようになり、女性の気持ちがだんだん軽くなってきたのが分かったそうです。   三番目の電話は男性からで、最近お母さんを亡くされ、孤独を感じている方です。不安、孤独などについてトーシュテンソンさんに語り、トーシュテンソンさんはどう思っているかを聞いてきました。トーシュテンソンさんは「アドバイスを送るのは難しいです。」と素直に答えます。そして、「教会にも相談なさってるようですし、同じような境遇の人が集まる教会での集会のようなものに参加されてみてはどうですか?あるいは心療科に行かれるのもいいかもしれません。」と具体的な代替案を提案していきます。会話を進めるうちに電話をかけてきた男性は簡単な解決策はないのだと気づきました。   自殺に結びつくことが最も深刻なことですので、トーシュテンソンさんは「鬱と自殺は強く結びついていますので、ネガティブな考えを取り去り、希望を持ってもらえるようにすることが非常に重要になってきます。」と言っています。そして、「この活動をやっていて、多くの高齢者の精神状態があまりよくないことを実感します。そして、こういった高齢者向けのホットラインを充実させる必要があると感じます。また、それと同時に、こういったホットラインを通した会話の次にはどうなるのか、次の段階に何をすべきか、ということも自問しています。」と言っています。  

■まとめ

今回のシニアレポートでは、スウェーデンの高齢者向けのホットラインについてレポートいたしました。今後もこういったホットラインの需要は増えると思われます。今後、よりサービスを充実させ、孤独な高齢者を減らしていくことが大事だと思います。そして、将来的にはすべての高齢者がホットラインを利用する必要がないような、精神的にも肉体的にも健康に過ごせる日が来て、ホットラインが発展的になくなる日がくることを願っています。