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スウェーデンにおけるデジタル社会と高齢者

様々な分野でデジタル化・オンライン化が進んでいる昨今ですが、最近スウェーデンで行われた調査によれば、まだ40万人(スウェーデンの全人口の約4%)近くの高齢者がデジタル社会から取り残されているそうです。今回のレポートでは、高齢者のデジタル社会におけるスウェーデン国内の状況、今後の対応などについてレポート致したいと思います。 

 ■デジタル社会と高齢者

 「新技術と高齢者の日常」についての調査・研究で、65歳から85歳までの高齢者を対象に、デジタル技術(パソコン・スマホ・タブレットなどの端末・インターネットなど)の使用・不使用について調査が行われました。次のグラフがその結果です。

   

 65歳から85歳の高齢者のデジタル端末(パソコン・スマホ・タブレットなど)の所有台数とその割合 出典:Artikelförfattarnas forskning

 このグラフから65歳から85歳までの高齢者で5台以上の端末を所有・使用している人も数%いますが、20%の人がインターネットに接続できるデジタル端末を一台も所有していないことがわかります。こういった人たちはパソコンやインターネットが登場する以前と同じ生活スタイルで生活しています。そのため、日常生活でバスの時刻表を調べたり、銀行口座に関する操作をしたり、電話帳を調べることが難しくなります(注:スウェーデンでは様々な分野でオンライン化が進んでいます。バスの時刻表はまだほとんどのバス停で掲示されてはいますが、バス停によってはもう掲示していないところもあります。時刻表はスマホのアプリ、インターネットで調べる方法が一般的です。また、銀行口座(振り込みなど)の操作は基本的にオンラインで行われます。そのため、銀行に行っても日本のようにたくさんお客さんがいることはまれです。電話帳については数年前から基本的に発行されなくなりました。こちらもインターネット上で検索するのが一般的です)。20%の高齢者という数字は無視できない数字です。最近ではアンケートなどがFacebook上で行われたり、ネット上で行われたりしていますが、この20%の人達の意見は反映されていないことになります。 高齢者がデジタル機器を使用していないのは、世代的なもので、まだ高齢者になっていない、現在デジタル機器を使用している人たちが10年、20年後に高齢者になれば自然と高齢者のデジタル端末使用率は増えるのではないかと思われる方もいるかもしれません。この考えはある意味正しいけれども、完全にそうだというわけではないようです。研究者によると、これはデジタル社会への移行期の一時的な問題ではないようです。研究者によると、デジタル端末を所有し、デジタル技術を使用することは世代だけの問題ではなく、年齢の問題でもあるそうです。調査結果を分析したところによると、定年退職後にデジタル端末の所有率、デジタル技術の使用率が下がるという傾向があることがわかりました。そのため、完全に世代の問題ではないというわけです。 また、次のような人がデジタル端末を所有しており、その使用率も高いことがわかりました。 -収入が高い人 -仕事でデジタル端末を使用していた人 -家族とのつながりが強い人・交友関係が広い人 デジタル技術を使用するには維持費もかかります。スウェーデンでは一般的に個人でパソコンや携帯端末を所有したり、インターネットを利用したりすると、年に10万円はかかると言われています。そのため、収入も重要な要素となります。また、仕事でパソコンなどを使用してこなかった人たちにとっては、デジタル技術・インターネットを利用することはまだ敷居が高いようです。仕事で使用している人、近くに使い方などの相談できる人にとっては問題ないかもしれませんが、そうでない人にとってはまだ抵抗があるようです。 定年退職後は収入も人との繋がりも減る傾向にありますし、歳を取るにつれ、毎日のように出てくる新しい技術・新しい端末の使用方法を習得することが難しくなります。ラジオやテレビは使い方を覚えるのはさして難しくありませんし、10年でも15年でも使うことができます。しかし、デジタル端末の使い方をマスターするのは難しく、サポートの打ち切り、端末が対応しておらずアップデートができないなどの理由で5年以上使うことはまれです。また、新しいタイプの端末・装置が登場したとき、新しいものに移行できずに取り残されてしまうこともあります。例えば、パソコンは操作できたけど、タブレット端末はできない。パソコン・タブレット端末は操作できるけど、スマートウォッチは使いこなせない、などなど、新しい種類のデジタル端末が出るたびにふるいにかけられるように、新技術についていけない人が出てきてしまい、デジタル社会から取り残されていくようになります。

   

 写真:シニアネット・スウェーデン協会のホームページより

 デジタル化の弊害がクローズアップされているように見えますが、こういった調査結果をもとに研究者たちがデジタル化を阻止しようとしているわけではありません。デジタル化・オンライン化を進めるにあたって、情報弱者の意見ももっと取り入れるべきだと提案しています。インターネットを利用してオンラインで様々な処理ができるようになってきていますが、デジタル、オンラインサービスを利用できない人のために代替のサービスも用意すべきで、行政は従来通り電話、郵便、家庭訪問によるコンタクトも引き続き提供すべきであると研究者は言っています。また、すでにデジタル端末を使用している高齢者に対するサポートも重要だと言っています。新しい技術、新しい種類の端末などがでても、デジタル端末を使い続け、デジタル技術の恩恵を受け続けることができるようサポートをする必要があると言っています。そういう意味では、例えば民間団体の「シニアネット・スウェーデン協会」の取り組みなどはよい例だと研究者は言っています。この協会ではシニア向けのIT講習、オフラインでの会合などを催しています。国民がデジタル社会・デジタル技術の恩恵を受けられるように、国民のデジタル機器使用のスキルの底上げは重要課題であると認識されています。民間団体(NGO)の活動だけでは限界があり、国が援助すべきだと研究者は言っています。

 ■まとめ

 今回のシニアレポートでは、デジタル社会における高齢者の現状について報告いたしました。デジタル化から逆行すること、デジタル社会からまた昔の非デジタル社会に戻ることは基本的には考えにくく、今後もデジタル化・オンライン化は進むと思いますが、誰もが恩恵を受けられるようにサポートを充実することが重要になってくると思われます。