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デンマークの福祉を支えるテクノロジー

突然ですが、デンマークと日本の共通点・相違点について皆さんは何をイメージしますか。


まず、共通点として頻繁に話題にされるものに「高齢化社会」が挙げられます。

数字としても明らかで、2024年1月時点では、総人口に対する65歳以上の割合が両国とも20%を超えています


一方、相違点としては、国土、人口、気温、幸福度の高さなど色々考えられますが、その1つとしてデジタル化があります。デンマークは「デジタル先進国」としても名を馳せていて、「世界デジタル競争力ランキング2023」(IMD)では、世界4位(日本:32位)と小国ながら大健闘しています


今回はそのような「共通点」と「相違点」に関連して、高齢者社会をはじめとした、デンマークの福祉を支えるテクノロジーについてご紹介したいと思います。


福祉テクノロジー導入の背景と特徴

デンマークでは、1980年代から行政管理の合理化を目的に、公的部門においてデジタル改革が進められてきました。

福祉部門に関しては、2001年に初めて電子政府戦略が発表され、現在では「デジタル化された福祉サービスの拡大」という政府戦略における重点項目の一環として、福祉テクノロジーはデジタル化と密接に関わっています。


高齢者介護に関する福祉政策の策定に、国・地方・市民など多くのステークホルダーが参加している点がデンマークの大きな特徴です。そもそも、福祉テクノロジーの活用・推進は国ではなく、地方自治体の管轄です。そのため、国が電子政府戦略として枠組みを定め、それに沿って地方自治体レベルでどのように活用・推進するかを決定しています。さらに高齢者介護政策の決定過程には、行政機関のほかに労働組合FOA(Fag og Arbejde)や高齢者問題全国連盟(ÆldreSagen)といった市民組織も加わるため、市民のニーズを反映した政策を打ち出すことが可能となっています。


デンマークにおいて福祉テクノロジーが積極的に導入された背景には、このような行政の側面だけでなく、国民自身が持つ価値観も挙げられます。

デンマークでは、第二次世界大戦後、ノーマライゼーション、つまり社会による援助や支援を通じて、年齢やハンディキャップにかかわらず、市民全員が対等な立場で社会活動に参加するべきだという考えが広まりました。自立して生活することが個人の尊厳につながるとされるデンマークにおいて、他人に依存せず自分の生活について自己決定し、社会活動に参加するためのサポートとして、福祉テクノロジーは多くの国民に受け入れられ、そして大きく貢献してきました。


福祉テクノロジーの具体例

先ほど述べたように、福祉テクノロジーの活用は地方自治体の管轄であるため、地域それぞれの特徴が見受けられます。

最後に、デンマークの自治体で実際に取り入れられているユニークな福祉テクノロジーを2つ紹介したいと思います。

ドーズカン (Dose Can)

ドーズカンはデンマーク・グラッドサクセ市 (Gladsaxe)で試験導入されている、いわばデジタル薬箱です。ドーズカンの中にはあらかじめ計量された薬や点滴が入っており、薬を飲む時間になると、ピープ音と点滅で教えてくれます。万が一、使用者が薬を飲まなかった場合は、警告を発し、自治体のホームケアスタッフが電話あるいは直接訪問の形で様子を確認しに来ます。このテクノロジーによって、使用者は一日に何回もホームケアスタッフに薬の提供を頼む必要がなくなり、より自立した柔軟な生活を送ることができるようになると期待されています。

写真:DoseSystemより引用。




サリタパール (Sarita Pearl)

サリタパール(写真左)はGPSセンサーの一種であり、デンマークの老人ホームクリスティアンズガーデン(Kristiansgaarden) で使われています。胸辺りにくっつけることができ(写真右)、入居者が転倒すると、携帯電話を通じて医療専門家に自動通知が送られるため、GPS情報をもとに素早い救出ができる仕組みとなっています。サリタパールによって、高齢者はスタッフの付き添いなしで散歩することができるため、高齢者の自立支援に貢献しているテクノロジーと言えるでしょう。


写真左右:デンマーク社会・住宅庁(Social- og Boligstyrelsen)より引用。


おわりに

今回は、デンマークにおける福祉テクノロジーについて、導入の政治的・文化的背景や、実際の具体例についてお話ししました。


デンマーク技術機構 (DTI) によると、日本はロボット工学のパイオニアである一方で、開発者がロボットの開発段階で、準備や掃除、片付けといった仕事を考慮しなかったため、福祉テクノロジー介護の現場では使われていないという問題もあります。


つまり、日本の課題は技術力うんぬんではなく、その技術を福祉の現場にどのように役立てるか、また福祉の政策決定において、国主導ではなく自治体や市民をどのように巻き込んでいくかではないかと思われます。


将来、デンマークをはじめとした北欧の取組がさらに注目・研究され、日本のロールモデルとして機能してくれることを期待するばかりです。