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デンマークの高齢者施設のデザインーØrestad Plejecenterの例をご紹介ー

近年のデンマークと言えば、高福祉国家やデジタル化の進んだ国家として知られていますが、美しい街並みを生み出したデンマークのデザインは、古くから世界の注目を集めています。

そして、デンマークのデザインは、著名な建築物だけでなく、デンマークの高齢者施設にも強く影響を与えてきました。オアステルプライエセンター(Ørestad Plejecenter)は、デンマークの著名な芸術家らの影響を受け、デザインされた高齢者住宅の一つです。

今回は、このオアステルプライエセンターのデザインについてご紹介いたします。


オアステルプライエセンター(Ørestad Plejecenter)について

オアステルプライエセンターは、114名の入居者を迎え入れる、デンマークの市営の介護付き高齢者住宅です。

JJW Arkitekter社によって2012年に開設された開放的な7階建てのこの住宅は、1950年代と1960年代を特徴づけた芸術家であるリチャード・モーテンセン、エルセ・アルフェルト、アスガー・ヨーン、ロバート・ヤコブセンらに誘発され、デザインされました。

オアステルプライエセンターの主な特徴は二つあり、一つは入居者だけでなく、従業員や地域の人々のことを考えた空間デザインであるということ、もう一つは芸術と文化に触れることを考慮したデザインであることです。


入居者や従業員、地域の人々を考えた空間デザイン

オアステルプライエセンターは、アマー島の南オアステル地区に位置していますが、この地域はデンマークでも近年開拓が進んでいる地域です。

この高齢者住宅周辺には、大型ショッピングセンター「フィールズ」や、デンマーク最大の屋内アリーナ「ロイヤルアリーナ」、映画館、カフェ、レストランなど様々な施設があるため、入居者は地域の人々との自然な交流の中で生活することができています。また、この住宅の外観デザインは道行く者の目を引くもので、鮮やかな明るい緑と黄色の建物に、大きな窓と一つ一つ形の異なるバルコニーが特徴的です。

これらのバルコニーは部屋によって飛び出している方角が異なっていて、それぞれの部屋から見える景色も少しずつ違っているため、遊び心のあるデザイン性が垣間見えますよね。



オアステルプライエセンターの外観。JJW Arkitekter社のホームページより2024年3月26日引用。


屋内にも様々な工夫が施されています。114戸のお部屋の他、一階にはカフェ、図書館、ダンスホール、スポーツジム、美容院、歯科医院、看護クリニックなどのサービス施設や、オアステルプライエセンターに囲まれた広い中庭があります。また、各お部屋とお部屋の間にはキッチン、ダイニングエリア、リビングルーム、テラスを含む共有スペースが設置されています。

こういった、入居者や従業員同士がオアステルプライエセンターで毎日を共に楽しめるような設計は、高齢者住宅にいるような感覚を忘れ、日々の生活の豊かさを育んでくれる小さな、そして大切な工夫だと言えるでしょう。



オアステルプライエセンターの2~4階館内図。JJW Arkitekter社のホームページより2024年3月26日引用。


 

オアステルプライエセンター共有スペースの様子。JJW Arkitekter社のホームページより2024年3月26日引用。


その他に、入居者のことを考えた優しい工夫もあります。例えば、各部屋用の郵便ポストは各階ごとに違う色であったり、館内もエリアごとに壁の色が異なっていたり。またトイレやサービス施設のドアには大きなピクトグラムが描かれていたりします。

文字を読まなくてもパッと見るだけで入居者が判断しやすいようなこういった工夫は、認知症を患っている方や目が見えづらいという方にとって助かるデザインです。


芸術と文化に触れることを考慮したデザイン

実はデンマークのコペンハーゲン市は、テーマを持った高齢者施設が沢山あります。

自分の好きなテーマを持った施設を選択するといったシニアライフの過ごし方は、日本ではあまり見られない、珍しいアイディアではないでしょうか。

コペンハーゲン市の高齢者施設には、アウトドアライフや、音楽、LGBTQ+等、様々なテーマがありますが、オアステルプライエセンターは芸術と文化をテーマに掲げています。そのため、館内には数多くの芸術家の作品が飾られているほか、入居者の作品も多く展示されています。更には、プロの音楽家を呼んでコンサートを行ったりと、芸術や文化が大好きな入居者にとって、オアステルプライエセンターは娯楽の宝庫であるかのようです。

人生を楽しむために、自分の好きなことに参加ができる。そんなシニアライフを送ることができるオアステルプライエセンターの工夫は、シンプルですが、大切なことではありませんか?


おわりに

デンマークの高齢者施設は、単にシニアの方々が生活を送るためだけの施設を超えて、関わる全ての人々が豊かで有意義な生活を送れるように工夫されている印象を受けます。その中でも、オアステルプライエセンターは、至る所で目を引くようなそのデザインから、世界からも注目を浴びています。

高齢者人口の増加と共に、日本もデンマークも、シニア向け施設が至る所で開設されておりますが、家族の一員を高齢者住宅に入れることに抵抗を感じる方も多いのではないかと思います。

オアステルプライエセンターのような、高齢者住宅とは思えない素敵なデザインの中にきちんと必要な機能が詰まっている場所、人々との交流の中で自分の好きなことも大切にできるような場所が増えていくことは、素敵なことではないでしょうか。

「年をとって介護が必要になることは、退屈でも悲しいことでもありません。」オアステルプライエセンターはこのように思わせてくれる高齢者施設です。