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社会で支え合う仕組み:デンマークの高齢者組織 ーデンマーク高齢者協会:エルドラ・セーエン(Ældre Sagen)ー

2024年10月

北欧研究所 安岡美佳


デンマークには、高齢者の支援を対象としたアソシエーション(NPO、非営利組織)が多数設置されています。その中でも、高齢者の社会的ニーズを支え、時には政治的にも存在感を示すロビイング組織として活動するアソシエーションが複数存在します。


今回は、その中でも高いメンバー組織率を誇る最大組織「デンマーク高齢者協会」を紹介します。どのような組織なのか、またどのようような形で高齢者を支え、社会にインパクトを与えているのかをご紹介したいと思います。

Ældre Sagen https://www.aeldresagen.dk


デンマーク高齢者協会とは

デンマーク高齢者協会(The Dane Senior Association, Ældre Sagen)は、社会における高齢者のニーズを守るための活動をする非営利の組織です。1986年に設立され、95万人(2023年)のメンバーがいますので、デンマークの高齢者の二人に一人が参加している計算になります。10年前の2013年のメンバー登録数は、65万人でしたので、この10年間だけを見ても大幅にメンバーが増加していることがわかります。


本部はデンマークの首都コペンハーゲンにありますが、全国的に組織化されており、各都市に215箇所の支部があります。活動は、全メンバー対象に行われる各種高齢者支援のサービスやプログラムから、地域で対面で行われる活動など多岐に渡り、1万4千人のボランティアが活動を支えています。中には、高齢者同士が支えあうプログラムも多々設計されており、少し若手の高齢者でITの素養がある方が、後述のITカフェを主催するなどの相互扶助もみられています。


メンバーシップ

メンバーは、高齢者として社会で生活する際に重要になってくる情報を入手できること、各種支援を受けられることなどから、デンマーク高齢者協会に加入するのですが、さらにメンバーシップに付随した特権があり、それが多くのシニアの関心を引いているようです。


まず、柱となっているサービスですが、主に、各種情報の提供です。年金や遺産などのお金に関する情報、健康に関する情報、社会保障やその他の資金援助の情報、毎日の生活の心配事に関わる情報と皆が不安になる事柄が大きく4つに分類されて、オンラインで最新情報が閲覧できるようになっています。例えば、高齢者が受けられる国や地方自治体が行っている社会サービスにはどのようなものがあるのかどのように申請するのかといったような内容から、年金に関する最新情報、法的な事柄に関するアドバイスサービス、孤独を感じた時の電話ホットラインサービスなど、サービス項目は多岐に渡ります。


そして、メンバーシップを持っていることで、毎日の生活に彩りを与えることができることも注目されます。日常生活のちょっとしたスパイスともなるレストランの割引や音楽、演劇、テーマパーク、美術館、動物園、美術展を会員価格​で​楽しむことができたりもします。さらに、旅行のパッケージツアーの提供や別荘の会員価格でのレンタルなどやフィットネスやエクササイズの支援なども行われています。


一つの巨大メディアに

メンバーが楽しみにしているサービスの一つに、機関誌(Fig1)があります。高齢者協会は、50歳以上のデンマーク人を対象とした年に6回の隔月に雑誌を発行しており、発行部数でデンマークの雑誌販売の三本の指にのぼるのだそうです。デンマーク全国で考えてみても、購読者が非常に多いということがわかります。内容は、多岐に渡ります。「曲げたり痛んだりすることない?(Fig2)』という記事では、いかに社会保障金を申請して足の手術を行い快適な毎日を取り戻したか、という内容が紹介されていますし、「セックスライフ(Fig3)」に関する記事などもあります。


Fig1



Fig2



Fig3



Fig4



また、メディアという枠で考えると、ポッドキャストや毎年更新される「高齢者のハンドブック(Fig4)」も人気です。高齢者ハンドブックは、紙媒体で提供されており、少々敬遠しがちだけれども、とても重要な各種法律や年金の情報や支援組織などが、わかりやすく解説されているものです。ハンドブックは、会員価格で154デンマーククローネ(3000円ほど、2024年9月)です。


IT利用の支援も

その時々の社会情勢にあったタイムリーなサービスも次々に生まれており、対面での数多くのイベントが各地域で開催されています。地域の支部では、地域のボランティアと協力し、メンバーに対して様々な文化・スポーツのコースを提供していたり、IT支援セッションが提供されています。


ITセッションは、デジタル化が進むデンマークにおいて、排除されがちなデジタル弱者を包括的に支援する方法の一つです。デンマーク高齢者協会が、地域のボランティアとともに、デジタル庁の資金援助を受けながら行うデジタル支援のプログラムもあったりします。IT支援には、最新情報のアップデート、自宅のルーターやストリーミングで問題が発生した場合のサポート体制、公共図書館との共催で開催されるIT カフェ(Fig5)やITコース、そしてIT 電話サポートや自宅訪問サポートなどもあり、痒いところにも手が届くような支援プログラムが取り揃えられています。


政治にも影響を与えるロビーイング組織

デンマーク高齢者協会は、自らを社会的団体であると定義していますが、実は、社会的・政治的にも大きな発言権を持っていると言われます。メンバーの多くがデンマークの有権者であるために、デンマーク高齢者協会は、高齢者が求めるニーズを取りまとめ、政治に働きかけることも頻繁に行っているからです。デンマーク統計局によると、2040年には、若い有権者の2.5倍の高齢者が存在することになると予想されており、高齢者へ配慮は、政治家にとっても避けては通れない権力の一つになっています。


ロビー団体ポリシー・グループのマッツ・クリスチャン・エスベンセン氏は、デンマーク高齢者協会は、デンマークのロビー団体のトップ3には入っていること、そして、多くの政治家がデンマーク高齢者協会を気にしていると述べています。


おわりに

高齢化社会が広がる中、いかに高齢者のウェルビーイングを向上させ、社会福祉をいかに支えるかは、多くの社会の課題となっています。当事者たちの毎日の生活を支え、相互扶助をも支え、当事者の声を社会や政治の中枢に届ける役割を果たすデンマークの高齢者協会は、高齢者支援組織というだけではなく、社会的な意義などといった様々な観点から、今後も注目されていくでしょう。