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高齢者と移民の両方が社会でより良く生きていくためのサービスElderlearn

2024年11月

北欧研究所 外間政紀/ 安岡美佳


定年退職後の人生をいかに過ごすか。やりたかった趣味に明け暮れたり、パートナーや友人との時間を楽しんだり、更には新たな出会いを求めてコミュニティに参加したり、形は様々ですが、心身ともに健康な日々を送ることが出来たら素敵ですね。

 デンマークでは高齢者の方々が社会の一員として、アクティブで健康な日々を過ごせるように面白い取り組みが行われています。そのうちの一つ、高齢者とデンマークへの移住者によるマッチング・デンマーク語勉強会、Elderlearn (エルダーラーン)をご紹介します。


エルダーラーンとは

エルダーラーンは、リタイア後も社会の一員として活動し、豊かな人間関係を持ちたいと考える高齢者、デンマーク社会に溶けこみ充実した現地生活を送りたい移住者の為に創られたサービスです。勉強会は、高齢者による移住者へのデンマーク語マンツーマンレッスンという形を取り、その内容やスケジュールは当事者ペアによって決められます。高齢者宅でのレッスンが基本ですが、時にはハイキングや街での買い物を楽しみます。会話の話題も、互いの出身地やこれまでの人生、現在の社会情勢についてなど様々です。


 移住者は語学学習を通じて、現地の社会文化を深く理解し、人生の先輩からデンマーク社会での生き方を学ぶことができます。高齢者の方々にとっても、自身の知恵と経験を用いて彼らをサポートすることが、社会の一員として活動する重要な機会となっています。そしてレッスンを重ねる中でペアの関係性も変化します。多くのペアが日常的に連絡を取り合うようになり、他愛のない会話を楽しむ、充実した時間を共有できる素敵な友人関係を築き上げているようです。

図1:アンさんとブリタさん(出典:エルダーラーン公式ホームページ)

ガーナ出身のブリタさん(左)と元セラピストのアンさん(右)。 自然の中で会話を楽しんでいる様子。
今では互いの家族のことまで、なんでも話せる関係になっているよう。


手厚いサポート体制

エルダーラーンは現在デンマーク全域に展開され、スタートした2017年から70の自治体で1600組のマッチングが実現しています。いかにして、高齢者にとって参加ハードルが高く思われるオンラインマッチングを実現させているのか。主にポイントは2つです。


1.自治体や介護福祉士との連携

高齢者にエルダーラーンを紹介する役目は、連携する介護福祉士や地方自治体の公務員の方々が担っています。高齢者と常日頃から接している彼らから、エルダーラーンに関する情報やサポートをもらうことで、高齢者が活動しやすい仕組みになっています。


2.レッスンのサポート

マッチング後、エルダーラーンの役目はレッスンを円滑に進めるためのサポートです。会話を盛り上げるトピックや語学学習を促進させるワードゲームの提供、また毎回のレッスン後にはそれぞれの参加者と連絡を取り、フィードバックを行います。

図2:Ordet er dit(出典:エルダーラーン調査レポート“Frivillighed til alle ældre”)


エルダーラーンがデンマーク企業"Copenhagen Game Lab"と共同開発したワードゲーム「Ordet er dit」。

ゲームを通してデンマーク語を学びながら、お互いについて理解を深められるようデザインされている。


ーインタビューから伺える、エルダーラーンを積極的に楽しむ高齢者たちー

「私たちは大人であって、ベビーシッターはいらないよ」

「この地域で他にエルダーラーンに参加している方がいるか知りたいわ。そしたらここでの経験を共有できるじゃない」

「若い人たちがある決断をする時の材料になれるかもしれないね」

デンマークの高齢者福祉では、人々の自主性を尊重し、彼らが自身の能力を最大限に発揮できる環境をつくることが重要だと考えられています。エルダーラーンにおいても、当事者の自主性を尊重し、レッスンの内容や日程はペア自身が決めます。このように、活動の自由度を保ちながらも必要なサポートを欠かさないこと、これが高齢者の積極的な参加を促し、ペアの関係性構築の重要な要素になっているのです。


おわりに

定年退職後の人生をいかに過ごすか。高齢化の進む国では多くの人々が一度は抱える問題です。しかし、充実した老後を送るための選択肢は、確実に私たちの身の回りで増えてきています。

実は、日本にもエルダーラーンと似たサービスがあるのをご存知でしょうか。

「まごとも」という京都大学の学生によって2023年にスタートしたサービスです。オンライン上でメンバー登録、利用予約を行い、若者との交流を楽しむことができます。身の回りのお手伝いやスマホの使い方支援などから、街歩き、ただただおしゃべりするなど、何をするかは利用者の自由です。インタビュー動画からは、高齢者の方々が若者との交流を心から楽しまれていることが伝わってきます。

人生を豊かにするには人との繋がりが重要だと感じます。そしてデジタル化が進んだことで、私たちはより簡単に多くの人々と繋がることができるようになりました。使い方がわからない、面倒くさいスマホが良い例かもしれません。それでも一歩踏み出して、身の回りの方々から教わってみてください。きっと素敵な出会いがあると思います。いかがでしょうか。


参考文献

Rapport-Frivillighed+til+alle+ældre-til-online.pdf (squarespace.com)

glocom.ac.jp/wp-content/uploads/2020/10/052-062_A_igari.pdf

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