今回は日本でもしばしば取り上げられる、「孤独な生活を送っている高齢者」に関するスウェーデン国内の様子をお伝えしたいと思います。
スウェーデンの統計局の調査では60歳以上の女性の39%が、男性の23%が一人暮らしをしているそうです。また、高齢者向けの施設に住んでいる人でも7割の人が時々孤独を感じ、2割の人が頻繁に孤独を感じているという調査結果があります。訪問介護を受けている人も半分以上の人が時々孤独に感じ、1割の人が頻繁に孤独を感じているそうです。 最近スウェーデンのある雑誌で孤独なお年寄りの話が取り上げられました。一部を要約してご紹介したいと思います。 ベンクトさん(仮名・男性)は2年ほど前に奥さんに先立たれ、子供たちは既に独立しそれぞれの家庭を持っているため、現在孤独を感じています。ベンクトさんは以前は働き、余暇を楽しみ、子供に恵まれ、友達もおり、充実した生活を送っていて、心配することは何もありませんでした。ところが今では一変して孤独を感じています。当然ベンクトさんはそういった生活環境が良いとは思っていません。奥様が亡くなられたあとの夏ぐらいまでは特に問題ないと思っていたそうですが、暗くて寒い冬がやってくると鬱になったそうです。時間が解決してくれるだろうとも思ったそうですが、状況は悪くなるばかりだったそうです。孤独な一日ができるだけ短く感じられるようにするために、ベンクトさんは朝10時まで寝ているそうです。そして、朝食を食べ、新聞を読み、毎日車でドロットニングホルム宮殿(スウェーデン国王の住まい)に行って、そこで散歩をするそうです。時間をつぶすためだけに。以前は車の渋滞に巻き込まれるのは嫌だったけれども、今は(時間がつぶれるので)渋滞に巻き込まれたいそうです。孤独な毎日ですが、少しは気にかけてもらっていると感じるときもあるそうです。例えば、子供の一人はほぼ毎日決まった時間に電話をしてきてくれるそうです。しかしその電話も短い会話だけで、その後はまた孤独になります。ベンクトさんは孤独な老人について誰も取り上げていないけど、これは政治問題として取り上げられるべき重大な問題だといっています。「若い人は関心が無いかもしれないけど、自分たちが歳をとってからでは遅いぞ」とベンクトさんは言っています。 ベンクトさんと同じような生活、あるいはもっと孤独な生活を送っている人が多くおり、大きな反響がありました。
ドロットニングホルム宮殿 写真:Wikimedia Commonsより
孤独にもいくつかパターンがあり、物理的にそばに人がいなくて孤独である場合や高齢者施設などのようにそばに人はいるけど精神的に孤独を感じる場合などがあります。いずれの場合も、自分の考えを人と共有することができなかったり、助けてくれる人がいないと孤独を感じ、病気の原因にもなります。そのため、孤独な状態にならないようにしなければなりません。 前述のベンクトさんのような人が多くいるため、様々な人がいろいろな形で孤独なお年よりを支援しようとしています。例えば、スウェーデン南部の街の診療所では観劇、音楽鑑賞、旅行などを通して孤独な老人を支援する試みを行いました。しかし、いわゆる「専門家」や政治家の人たちにとっては難しい問題で、「解決するのは簡単ではない」という声を良く聞きます。 そういう中で参考になるのは実際に配偶者と死別するなどして、孤独を感じている人、感じていた人からのアドバイスだと思います。共通しているアドバイスはやはり、社会に出て人と接するということのようです。新しい趣味を見つけて、新しい友達を見つける、映画、観劇、コンサート仲間を作る、飲み友達、食事友達を作るというアドバイスが多く見られます。エヴァさん(女性)は、ご主人と死別して、子供もおらず、孤独を感じたそうです。エヴァさんはフランス語の語学講座に通い始めることから始め、その後、色々な講座を受講し、新しい友達を作り、孤独を感じなくなったと言っています。家に一人孤独にいることを避けるために進んで他の人と一緒に住める高齢者施設に住むことを選択した人もいます。中には、引っ越した先で新しい友達ができない、新しい友達を作ろうとしても、既にグループが出来上がっていて新しい人が入れる雰囲気ではない、と感じている人もいるようです。そういう人たちのために、退職者協会の人たちが色々な事を楽しむサークルを作ったりもしています。
シニアサークル 写真:サラ・リングストレーム、退職者協会ホームページより
このほかに、他の人を助けることに生きがいを見出すと良いとアドバイスしている人もいます。ボランティア、移民にスウェーデン語を教える、子供に本を読み聞かせるなどできることはたくさんあると言っています。また、逆に孤独を悲観的にとらえず、受け入れ、楽しめば良いという意見を言った人もいます。リズベットさん(77歳、女性)は、一人で瞑想、気功を行うことで、心の平穏を保っているそうです。そして、一人でも音楽を聴いたり、歌ったりすることで、人生を楽しんでいるそうです。
ITを駆使して社会との連絡を保つ方法も情報工学の研究者らによって行われています。例えば、スウェーデン北部にあるウメオ大学の研究者はパソコンの前にあまり座らない、携帯電話をあまり使わない高齢者をサポートするため生活用品の中に情報機器を埋め込む方法を提案しています。プロトタイプで、製品化はされていませんが、例えばソーシャルネットワークなどでメッセージを受け取ったときに、緑色に光るカーテンなどを開発しています。このほかにも箱に取り付けたカメラで顔の表情を捉え、解析することで心身の健康状態がわかるようにできる仕組みなどを提案しています。
光るカーテンとウメオ大学のウォーターワース教授(左) 写真:ミカエル・ハンソン
今回のレポートはスウェーデン国内における孤独なシニアに関する現状、孤独な状態を避ける方法についてレポートしました。孤独な状態を経験した人の意見を聞いたり、政治レベルで話し合ったり、ITを駆使したりと、今後様々なアプローチで孤独解消のための試みが続けられるのではないかと思われます。