転倒による怪我などを防ぐためにトレーニングをして体を鍛えることが非常に重要視されています。今回のレポートでは、スウェーデンでのシニアのトレーニングに関する様子をお伝えしたいと思います。
高齢者の転倒による怪我・死亡は非常に大きな問題になっています。 年齢の増加とともに転倒のリスクは高まります。筋力の低下、バランス感覚の低下、病気、視覚・聴覚機能の低下、薬の服用、体重の低下などが原因と考えられています。 スウェーデンでは、転倒による死亡事故は交通事故死の4倍、その数は15年前に比べて2倍になっています。また、高齢者人口の増加に伴い、高齢者の怪我・病気に関する自治体の財政負担は年々大きくなってきています。 スウェーデンの社会保険庁の調査によると転倒による死亡率には地域差が見られるそうです。例えばスウェーデン北部の県、イェムトランド県では転倒が原因で死亡した人は10万人に28人(2015年)だったのに対して、ゴットランド県では10万人に5人だったそうです。 社会保険庁は各自治体が転倒による怪我を防止するための各自治体の取り組みの違いがこういった違いを生み出しているのではないかと推測して、関心を寄せています。 また、他の調査結果でも地域差が見られました。「80歳以上で、転倒が原因で病院に行った人」の数は県別に見ますとストックホルム県が一番多く、1000人に当たりに72人だったそうです。一番少ない県はイェヴレボリ県で1000人に当たりに53人だったそうです。また、市町村レベルで見た場合、1000人当たりに30~86人になるそうです。 このような事情から、社会保険庁は転倒防止に関わるスタッフの教育に力を入れています。
転倒事故は運動、バランス感覚のトレーニングをすることで予防可能であると考えられています。怪我や病気を予防するためには運動をすることが良いことは研究でも明らかになっていますし、トレーニングの重要性もパンフレットなど使った啓蒙活動が行われています。 しかし、あるシニアはこれでは不十分だといっています。研究して、啓蒙活動を行っても状況は改善しておらず、実行する(実際にトレーニングをする)ことに重点を移すべきだと言っています。 研究、啓蒙活動が盛んでも実際にトレーニングする機会が少なかったり、十分なサポートが受けられない現在の状況を打破しなければいけないといっています。 例えば、ストックホルム郊外の町、ナッカでは90歳以上の人を対象にしたトレーニングコースがありますが、そういったコースを増やすべきだといっています。
トレーニングをする90歳以上の高齢者 写真:プル・フリスク
そうすれば、高齢者がより健康になり、自治体の医療費の負担を減らすことができ、削減した分を健康維持のためのヘルスケア、高齢者のトレーニングの補助などに当てれば良いと提案しています。
こういった声は良く耳にするため、スウェーデン北部の町ウメオではシニアのトレーニング・運動のサポートを始めました。 市の福祉課とレクリエーション課が協力し、65歳以上の健康増進を目的として、ダンス、水泳、ウォーキングなどさまざまな活動の補助を始めました。最初の一歩として、日本円にして総額約600万円の予算を組み、プールの見学会などを催しました。 担当者は、「体を動かすことは心身両方のために重要だということを知っています。これは若い人でも高齢者でも同じです。65歳以上の人に関して言えば、転倒などによる怪我を防ぐ上でも日ごろから運動することは重要ですし、その後も健康であり続けるために重要です。そのため、福祉課とレクレーション課の連携は非常に重要になってきますし、重点課題と位置づけています」と言っています。 また、退職者協会は各支部でウォーキング、ジム、ヨガ、エクササイズ、ダンス、プール、ボーリング、卓球などさまざまなフィットネス活動を行っています。
最近シニア専門のトレーナーも誕生しました。クリストファーさんはシニア専門のトレーナーで、これまでに5年間さまざまなシニアにトレーニングを行いました。クリストファーさんは最初は週に1、2回のトレーニングでよいと言っています。 時々まとめてやるよりは、コンスタントにやったほうが良く、最初から高いハードルを設定しないほうが良いといっています。また、普段いるところでトレーニングをはじめるのが良い、家でも良い、とアドバイスしています。 高齢になってトレーニングをしようと思うと「危険ではないか?」と思われるかもしれませんが、クリストファーさんによると、「これまでに自分がトレーニングした高齢者で大きな怪我を負った人は一人もいなかった」ということです。
高齢者にトレーニングをするクリストファーさん 写真:ヨナタン・ナックストランド
今回のシニアレポートでは、高齢者の転倒事故とトレーニングについてお伝えしました。転倒事故を防止するため、健康寿命を長くするためにもやはり常日頃トレーニングをするのが良いように思います。今後、シニアのためのトレーニング環境が充実してくるものと思われます。