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高齢者向け仮想現実(バーチャルリアリティー)

  今回は、スウェーデンのルンド大学における高齢者向けの仮想現実環境の研究開発に関するレポートをお送りしたいと思います。

■ ルンド大学での取り組み

スウェーデン南部の街ルンドにあるルンド大学のイングバール・カンプラッドデザインセンター(家具のイケアの創業者イングバール・カンプラッドの名を冠したデザインセンター)のバーチャルリアリティー(VR)研究室では、外出して自然に接することが困難な高齢者が自宅で「仮想現実自然」を体験できるようにするための研究を行っています。

 

 ルンド大学・イングバール・カンプラッドデザインセンター

 VR眼鏡とコントローラーを使ってホルヤンスキーさんは夏の海岸を歩いています。満開の花が見えます。 さざ波の上でボートを漕いでいます。草原を飛び交う蝶を見ています。「すごく近くに蝶が!」「この門開けられるの?」 彼女は今、VRの世界を歩いています。 ルンド大学工学部で講師・建築家として働いているホルヤンスキーさんを含め、40人近くの人がモニタリングに参加しています。この研究所でのモニタリングが終了した後、今秋(2018年秋)には高齢者施設で実際に高齢者の人にVRを体験してもらうことになっています。

   

 ルンド大学の研究者たち(ルンド大学HPより)  

■仮想現実自然で健康状態は改善するか?

自然環境に身を置くことは健康にポジティブな影響があることは知られています。現在行っている研究では、仮想現実自然でも同じような効果があるかを調べています。 ホルヤンスキーさんは一回10分のVRコースを4回テストしました。それぞれの回の間にホルヤンスキーさんはアンケートに答え、心電図を取り、心拍数を測り、ストレスホルモンのレベルを測定するために唾液検査を行いました。こうして集められたデータは将来VRを使用する高齢者の睡眠パターンや使用している薬の情報と合わせて、仮想現実の中での自然が健康に及ぼす影響をみるために利用されます。 研究に携わっているルンド大学工学部デザイン科学科の研究者であるヴァーレルゴードさんは、「多くの人たち、例えば認知症、不眠症、ストレスが溜まっている人達にVRを使ってもらう予定です。彼らは外出して自然に接する機会があまりありません。ですから「自然」の方から家に来てもらおうというわけです。仮に高齢者が、仮想現実自然によっていい体験をしたと思えるのであれば、幸福度が増すでしょうし、もし、精神的に安定したと感じるのであれば、睡眠の質も上がり、薬の量も減らせるかもしれません」と言っています。 ホルヤンスキーさんがVRを試し終わったとき、環境は良く、不自然さはなかったと言っています。ホルヤンスキーさんは個人的にはVRの副作用は感じていないと言っています。彼女はVRの中でもっと人に会うことができたらいいと感想を述べています。研究に携わっている博士課程の学生ルンドステッドさんは「孤独は非常に重要な問題です。人との触れ合いが少ないと、孤独度が増します。より自然な環境を再現するために、こういった利用者の声は大事です」と言い、ホルヤンスキーさんのコメントをメモしました。 ルンドステッドさんは「VRの中でも感情や物理的なもの、ソーシャルなものを再現したいと持っています。VR開発の世界では『presence(臨場感、実在感)』と呼ばれています。これは現実に近い世界をVRで再現し、それを体験する上で、キーとなる概念です」と言っています。ヴァーレルゴードさんもそれに同意して、「VR眼鏡は以前は家庭用ではありませんでした。しかし、簡単に利用できるようになり、近年急速に普及しました。また、以前のVR眼鏡は使用後気分が悪くなったりしていましたが、今ではそういった欠点も少なくなってきました」と言っています。

 

VR用メガネを装着している高齢者(ルンド大学HPより)  

■まとめ

今回のレポートでは、高齢者向けVRの研究についてお伝えしました。VRに関する商品は既に市場でており、外出が困難な人のために介護や医療の現場で部分的に利用されていますが、今後健康への影響などさらなる研究が進むものと期待されます。


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