今回のレポートでは、文化的な活動によって認知症を予防することができるという、スウェーデンのヨーテボリ大学の教授による研究結果をご紹介したいと思います。
文化的な活動は認知症の予防になるか?という問いに対する答えが明らかになりつつあります。様々な病気を予防する可能性も指摘されているようです。現在では例えば、喫煙は健康によくなく、運動をし、規則正しい生活をするのが良い、といったことが知られています。しかし、文化的な活動が本当に認知症や病気の予防になるかどうかははっきりしていませんでした。ヨーテボリ大学のスコーグ教授によると、1970年代はそういった予防について述べるにしても、科学的な裏付けがない、あいまいな感じだったそうです。そのころは喫煙が害であるということが科学的に証明され始め、高血圧が良くないということを議論し始めた程度だったそうです。そして、当時は健康についてのアドバイスをしてもあまり一般の人には聞いてもらえないような時代だったそうです。その後健康に関する啓蒙活動を続け、一般の人々に健康に関する関心を高めてもらえるようになったそうです。それでもこういった活動には長い時間を要するようです。例えばスウェーデンでは1990年代まで病院の建物内やレストランで煙草を吸うことができました。習慣や規則を変えるために何十年もかかりますが、たゆまぬ努力が大事であると教授は言っています。
スコーグ教授 写真出典:Wikimedia Commons
話が少しそれましたが、それでは文化的な活動の影響はどうなのでしょうか?最近教授のグループが800人の女性を44年間追跡調査した結果をまとめ、論文を発表しました。論文によると、中年期における運動、知的な活動は、高齢者になったときに認知症に関連する病気になるリスクを約30%下げる効果があるということです。これはその人の教育のレベルや、社会的な地位に関係なく当てはまるそうです。知的活動が、認知症の予防になるということに対して、眉唾物だと感じる人もいるかもしれませんが、「知的な活動」の中でも読書やコーラス隊で歌う、楽器を演奏する、音楽を聴くといったことが効果があるそうです。これまでにも音楽セラピーのようなものもありましたが、おそらくあまり真剣にはとらえられてなかったかもしれません。
論文雑誌Neurologyに発表された論文
現在では、脳の活動の度合いを測定する手法がいくつか確立されていますが、音楽が一番脳を活性化させるそうです。こういった結果から現在では脳梗塞など、脳に関する病気のリハビリに音楽セラピーの適用が試みられています。 文化的な活動によって脳内のシナプスの数が増えるそうです。脳をトレーニングすることが可能であることも、ロンドンのタクシー運転手の脳に関する有名な研究(MRIで脳を撮影すると方向に関する脳の部位が発達しているなどの結果が得られた)によって知られています。脳をトレーニングすることによって「脳の予備力」のキャパシティが大きくなり、発症を遅くすることができると信じられています。このようなことから運動だけではなく、文化的な活動や脳のトレーニングも認知症を予防する上で重要になってくるようです。
脳の健康のために社会(国)がもっと文化的な活動に投資する必要があると教授は言っています。スウェーデンにおける認知症に関する社会的費用は約400~500億クローナ(4800~6000億円)です。日本での費用に関する資料は手元にありませんが、日本の人口はスウェーデンの10倍以上ですので、費用もそれに応じたものになると推察されます。教授は文化的な活動に投資することによって、例えば認知症になるリスクを10%下げることができれば、40~50億クローナ(480~600億円)を節約することができると言っています。教授の研究結果によれば、30%下げることができるそうです。この場合、スウェーデンにおける文化的な活動に関する予算160億クローナ(1920億円)程度に匹敵する額を節約できることになります。
今回のレポートでは、文化的な活動が認知症の予防に役に立つという最近の研究結果(スウェーデン人女性を対象にした研究)をご紹介しました。認知症予防のためにも教授が奨めているように、コンサートにいって、歌を歌って、読書をしてはいかがでしょうか?