今回のレポートでは、スウェーデンで様々な議論が行われている年金制度とシニアのワーキングスタイルとの関係についてレポートしたいと思います。
スウェーデン国内の50万人を対象に経済状況を調査(2000人以上へのインタビューを含む)した結果、多くの70歳以上の人が仕事を続けていることがわかりました。70歳以上の人の25%が、77歳以上の人の10%が何らかの形で働いています。多くの人がボランティア的に働いており、健康であるために積極的に社会活動に参加し、刺激をもらうことが主な理由のようです。 スウェーデンでは現在のところ年金支給開始年齢は61歳ですが、実際は仕事と並行して年金生活に入る人が多いようです。仕事による収入と年金による収入を分けて統計をとるようになってから、どのように年金生活に入っていくのかが明らかになってきました。定年になって急に年金生活に入るのではなく、10年ぐらいかけて徐々に年金の割合を増やしていく人が多いようです。 70歳近くまで働き続ける理由としては、主に2つあり、前述のように刺激を求めるということと、年金生活者になったと思いたくないというメンタル的なものがあるようです。定年後も経済的な理由で働くことを余儀なくされている人の割合は20%程度で、30%の人が経済的に問題がなくても、より高い年金をもらうために働き続けていることがわかりました。また、男女差が大きいことも明らかになりました。女性の3割は生活のために働かないといけないと言っているのに対して、男性の場合は1割程度にとどまっているようです。
スウェーデンにおけるシニアの(定年退職後の)就業率はヨーロッパでもっとも高くなっていますが、スウェーデンと同じ北欧に属するアイスランドの場合はどうでしょうか? アイスランド人は、年金支給額について、現役時代の給料の65–70%は確保したいと思っているようです。スウェーデン人の場合はこれよりも低いようです。これは統計に基づいたものではなく、大体の感覚によるものですが、このような傾向があるようです。アイスランドの場合定年退職は67歳で、就業率も(シニアだけではなく全体で)高いようです。 「概して島国の人はより長く、沢山働く傾向にある。経済協力開発機構(OECD)諸国の中でアイスランドの人は最も長く、たくさん働く。就業率は高く、多くの人が、複数の仕事を持っている」と、かつてOECDで年金に関する調査報告書を作成し、現在スウェーデン政府の社会省で審議官を務める、ルンドベリィ氏は言っています。
ルンドベリィ氏 写真:LinkedIn
アイスランドでは60–64歳の人の約80%が、65–69歳の50%以上が働いています。スウェーデンの場合、60–64歳の人の場合約70%で65–69歳の場合となると20%まで下がります。こうした割合は年金受給額にもより、スウェーデンの場合アイスランドに比べ年金受給額が多いので、早めに年金生活に入るのは不思議ではないと分析されています。アイスランドの場合、給料と年金支給額の差がスウェーデンほど大きくありません。ただし、アイスランドはスウェーデンに比べて住居費、食費などの生活費が高いようです(一人暮らしか家族と暮らしているか、どのように生活しているかにもよりますが)。 「スウェーデンは男女平等だけではなく、ほかに多くのことをアイスランドから学ぶことができる」と前述のルンドベリィ氏は言っています。例えば、アイスランドでは2018年1月から男女間の賃金格差は違法となっています。また、2020年には完全に格差がなくなると予想されています。
「スウェーデンは高齢者と仕事に関する意識・概念を変えないといけない」と前首相のフレドリック・ラインフェルト氏はジャーナリスト、政財界の人などが出席した朝食会で述べました。 ラインフェルト氏曰く、「寿命は長くなり、健康寿命も長くなった。年金受給者の数は増えると予想されており、これまでの仕事量では高い年金は望めない。このままでは年金制度は徐々に崩壊していく。」 ラインフェルト氏はこれに対処するためには仕事と生活スタイルに対する態度・姿勢を変える必要があり、それに加え、高齢者とは何かという定義の変更、高齢者がどのように貢献できるかを考えていく必要があると思っているようです。また、個人の能力を評価する方法を変える必要があり、どのように雇用するかを考える必要もあると言っています。
フレドリック・ラインフェルト前首相 写真:Wikimedia Commons ラインフェルト氏は首相在職当時の2012年に75歳まで働く必要があると言って物議を醸しました。これは、長く働きたい人、働ける人を応援するため、また、長く働いてもらうための意識改革を求めたもの、徐々に考えを変えてもらうためのメッセージだった、と言っています。
今回のレポートでは、シニアの働き方と年金についてお伝えしました。スウェーデンでは年金制度を維持するための最善策を模索しているところです。また、それに伴い意識を改革していく必要があり、人々の意識は徐々に変わりつつあるようです。