近年、デンマークではサードエイジ(高齢者になる前の、退職後の身体的・精神的に健康なシニア世代のこと)向けのコハウスの建設と、需要が増加しています。
今回は、デンマークのシニアコハウジングについてお伝えします。
コハウジングは社会的繋がりや協力し合う暮らしを理念に、1960年代にデンマークで始まりました。
各家にキッチンやバスルームが備わったプライベートエリアと、コミュニティで共有できるキッチンや食堂や庭などがあるエリアがあります。住人は、様々な世代や文化、家庭環境が混在する中で共に生活することで、お互いを助け合い、安心できるコミュニティを創ります。北欧では共同生活文化の長い歴史があり、1960年代のコハウジングコミュニティ設立を機にヨーロッパ、北米、オーストラリアでもコハウジングが普及していきました。
コハウジングの中にも、年齢層や家庭環境に特化したものがあります。
デンマークでは1987年に初のシニア向けコハウジングコミュニティが設立されました。
デンマークでは今後もシニア層の人口増加が予想され、シニアの暮らし方に注目が集まっています。近年デンマークでは民間開発業者によるシニア向けのコハウジング設立と需要が急増し、デンマークの民間団体リアルダニア(Realdania)の2020年の調査によると、およそ8万人のシニアがコハウジングに住むことを検討していながらも、6900の家しか提供できず、需要に供給が追いついていない状況です。
なぜ、多くのシニアがシニアコハウジングに移住したいのでしょうか。
2019年に発表されたデンマーク社会科学研究センター(VIVE)のレポートによると、52歳以上の回答者は質問に対し、子どもが家を出たので小さい家に住みたい、庭仕事をしたくない、生活コストを減らしたい、などという回答がありました。
また、それ以外にもコハウジングに住むことで、孤独や体力の低下などを防ぐ効果があるとも研究されています。
特にシニアコハウジングでは、同じ年齢層が揃うことで似た趣味や考えを持つ人と出会うことができ、自分にあったイベントに参加できます。
また、階段や廊下での何気ない会話や、食事を通してコミュニティの一員であるという強い意識を持ちながらも、自立したプライベートな生活を送ることができます。実際に、コハウジングコミュニティにいることで体力の増加を感じた住民が多数いるという調査結果も出ており、今まで公共の医療サービスに頼る必要があったことも、お互い助け合うことで以前ほど頼らなくてよくなると考えられています。
シニアコハウジングコミュニティカメリア・フス(Kamelia Hus)
近年ではより住民の交流を通してコミュニティの一体感が生まれることを念頭に、今までにない構図やコンセプトを掲げた新しいシニアコハウジングコミュニティが作られています。
今回はコペンハーゲンのバルビュー(Valby)にある、2019年に完成したシニアコハウジングコミュニティカメリア・フスについて紹介したいと思います。
カメリア・フスには60歳以上の独り者やカップルを合わせた49の家があり、グロントルヴェット(Grønttorvet)というエリアに位置しています。
食事や交流ができる図書館や美術室、屋上菜園や温室などの大規模向け施設から、近隣の数個の家がテーブルや椅子を置いて話すことができるシェアバルコニーなどの小規模向けの共有スペースが備わっています。
昔は大規模な花や野菜の卸売市場であったグロントルヴェットでは、今ではカフェやオフィスや庭などが建てられ、再開発が進んでいます。
実際に行ってみたところ、遊具やベンチが揃った大きな広場を中心に、協同組合住宅から賃貸住宅までたくさんの集団住宅が立ち、住人がバルコニーでくつろいだり、共有スペース用の建物内でクラフトワークショップを行ったりする様子が見られました。
近年のデンマークでは民間開発業者が積極的にシニアコハウスを造り、提供しています。住民自らがコミュニティをデザインして作り上げるという昔ながらのコハウジングに比べ、業者のデザインの仕様によってはコミュニティがどのように影響を受けるかわからないという点もあります。
また、コハウジングそのものにはコミュニケーショントラブルが起こりうることもあり、コミュニティに入ることでシニアの生活が楽しく充実したものになるとは一概には言えません。
世界中で課題となっているシニアの人口増加や孤独問題に対し、どのようにコハウジング文化が変化していくか楽しみです。