中山星奈・安岡美佳
以前、デンマークの福祉分野に、テクノロジーがいかに導入されているか[1]という報告をしました。 今回は、そんな福祉テクノロジーを、利用者たち、利用者の家族や介護の人たちに身近にするための試み『DokkX』を紹介します。
デンマーク第二の都市であるオーフス市には、Dokk1(ドッケン)という図書館があります。そのドッケンには、「DokkX」という福祉テクノロジー展示施設があります。この施設には、ローからハイテクノロジーまで約150種類の様々な福祉機器が展示されています。
展示されている機器には、大学のスタートアップ企業によって開発され、まだテスト段階に至っていないものから、実際に施設や在宅で使用されているものまで幅広く含まれています。デンマークだけでなく、他国で開発された機器も展示されており、日本のオリィラボのOriHimeも展示されています。
この施設を訪れるのは、主に以下の人たちです。
①オーフス市民
オーフス市民にとって、この展示はとても身近で、誰もがここに来れば福祉機器を見たり使ってみたりできることを知っています。だからこそ、実際に使用する立場になる高齢者や障害のある方々、支援を行う介助者の方々が訪れます。グループに対してデモンストレーションが行われることが多いそうです。
②学生
主にヘルスケアや工学を専門とする学生が訪問します。彼らは様々な技術を発展させる上で新たな洞察を得ることを目的としています。
③開発会社
福祉機器を開発した企業の関係者が展示のために訪れることがあります。また、老若男女があつまる公共の図書館に展示されているため、近くに来た人がプレゼンテーションを行うこともあります。
展示施設は、各ブースが家の一室のように設計されており、実際の使用場面が分かりやすいように展示されています。例えば、玄関をイメージしたブース(図1)では、認知症の方がドアを覚えやすいように自宅と同じ柄のドアを印刷して貼ってあります。
図1:「Velkomst」と書かれた入り口。
図2:壁にはカードが飾りのように掛けられている。
また、展示されている福祉機器の写真がカードにして飾られています。 表面にはQRコード、裏面にはそのテクノロジーの説明が書かれています。
一つ福祉テクノロジーを紹介します。 図3は、ボタンを押すだけで時間に応じて必要量の薬を出してくれる機械です。 デンマークでは、薬の確認のために高齢者の家を訪れることが少なくないため、このような機械が導入されています。
図3:適切な薬を適切な量だけ出してくれる機械
実際に私が訪問した際も、20人ほどの高齢者の方々に対して施設の担当者が説明を行っていました。
皆さん熱心に話を聞かれ、自分から使用してみる姿も見られました。
テクノロジーを介護現場に導入するのは少しハードルが高い部分もありますが、このような誰でも気軽に簡単に訪問できるような場所があることで、少し身近に感じられるようになるのだと思います。
施設が一般の人々にも公開され、誰でも気軽に訪れることができるため、実際にどのようなものを使うのか知りたいユーザーにとっても、フィードバックを得たい企業側にとっても、非常に有益な展示施設になっています。
参考
デンマークの福祉を支えるテクノロジー.2024.5. https://dignitycharm.co.jp/columns/285